手を使わずに他者を死に追いやる恐ろしさ
『不能犯』(2017)
監督:白石晃士
キャスト:松坂桃李、沢尻エリカ、新田真剣佑、間宮祥太朗、テット・ワダ、菅谷哲也、岡崎紗絵、真野恵里菜
【作品内容】
SNSで「電話ボックスの男」の噂が広まり、依頼を貼ると願いが叶うと話題になっていた。そんな中、金融会社社長と町内会会長という2人の権力者が心不全で不審死を遂げ、刑事の多田(沢尻エリカ)は黒スーツの男・宇相吹正(松坂桃李)を追っていた。彼は目を見ただけで相手を死に追いやるマインドコントロールを駆使する、立件不可能な“不能犯”だった。
【注目ポイント】
人気コミックを原作に、ホラーやサスペンス映画を主に手掛けてきた白石晃士監督がメガホンを取った本作。思い込みやマインドコントロールを駆使して、証拠を残さずに殺人を繰り返す主人公の宇相吹正、それを追う女性刑事・多田の緊迫した対決を描いたサスペンス・スリラーだ。松坂桃李をはじめ、沢尻エリカ、新田真剣佑、間宮祥太朗が名を連ねた作品である。
松坂演じる宇相吹は、黒いスーツを着た謎の男であり、彼はターゲットの心理はおろか行動をも自在に操る能力を持ち、最終的には命を奪うことで目的を成し遂げる。彼の眼差しを受けただけで、人々はその意志に従わざるを得ないのだ。そんな宇相吹は電話ボックスに張られた殺したい相手が記された情報に基づいて犯行に及ぶ。重要な点は、復讐が純粋なものではない場合は依頼人が命を落とすという点である。
殺人依頼の内容は一見復讐にみえるが、ほとんどは思い込みによる殺意が招いたものばかり。宇相吹の行動は復讐代行、あるいは「世直し」という名目でポジティブな側面を持っているように思えるが、本作が観る者をゾッとさせるのは、自分の手を汚さず宇相吹の力を借りて、憎き相手に天誅を下そうとする凡庸な人々の底知れぬ悪意にほかならない。その点、人間の恐ろしさを浮き彫りにする映画だと言えるだろう。
宇相吹のマインドコントロールが唯一効かない刑事の多田(沢尻エリカ) と宇相吹の心理戦も見応えたっぷり。水準の高い娯楽映画でありながら、観終わった後、ズシリと心に重いものが残る作品だ。