松村北斗の表情管理の妙

松村北斗【Getty Images】
松村北斗【Getty Images】

 なかでも、特に気を吐いてるのが真戸原優を演じる松村北斗だ。公式の説明であった「明るく実直で包容力があり、自己肯定感が高く、ポジティブな行動派」という太陽のような面は前半で陰りを見せ、後半は自身の過去のトラウマに苦しむ悲劇的で自己肯定感が異常に低いネガティブ繊細派青年に変化している。

 1話と8話を見比べると、もはや別人としか言いようがなく、ともすれば「二重人格かよ」と言われかねないが、松村はツッコまれるかツッコまれないかの絶妙のラインで「真戸原優」というキャラクターを保っている。

 特に凄まじいのが「表情管理」だ。先日公開された映画『ファーストキス 1ST KISS』(2025)でも離婚寸前の倦怠期夫婦の淀んだ雰囲気と、出会った頃の初恋のキラキラした雰囲気を見事に演じ分け、観客の涙を誘っていた。「目は口ほどにものを言う」ということわざがあるが、それを誰よりも体現しているのが松村北斗だろう。

 1話ラストシーンで瀬奈が降ってきた雪を眺めている顔を愛おしそうな顔で見つめる「恋」の表情は「好き」と言葉にしなくても想いが伝わるアンサンブル屈指の名シーンだった。

 これは常に何万人の前に立ち続け、自分の姿を360度見られていることを意識しながら歌やダンスを踊ってファンを魅了し続ける「アイドル」だからこそできる顔だ。

 8話では反対に「大切な人には幸せになってもらいたい」と言葉では言いながら、優の実母が瀬奈に危害を加えるのを防ぐべく瀬奈の元から離れる決意をする、という難しいシーンを完璧に表現していた。

 8話ラストで弁護士事務所にも退職届を提出し、瀬奈たちの元から姿を消した優。早い段階で付き合い初めると絶対に途中で別れる、というのは恋愛ドラマあるあるとしては初歩中の初歩だが、ここまで奇をてらわずに真っ直ぐやられると逆に新鮮味すらある。

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