兵士の生き地獄を描いた異色の反戦映画

『ジョニーは戦場へ行った』(1971)

『ジョニーは戦場へ行った』
『ジョニーは戦場へ行った』【Getty Images】

監督:ダルトン・トランボ
キャスト:ティモシー・ボトムズ、キャシー・フィールズ

【作品内容】

 第一次世界大戦で出征したジョーは、砲弾で顔と四肢を失い、意識だけが残った状態で病院に収容される。

 意思疎通ができず苦悩するジョーだが、やがてモールス信号で看護師とコミュニケーションを取り、自由や安楽死を求める。

【注目ポイント】

 反戦映画といえば、『西部戦線異状なし』(1930)や『プライベート・ライアン』(1998)など、戦場の悲惨さを描いた作品が一般的だ。しかし、「身につまされる」という点には、本作に勝る作品はないだろう。1972年公開の映画『ジョニーは戦場へ行った』だ。

 本作は、「ハリウッド・テン」(共産主義排斥運動の「赤狩り」でハリウッドを追われた映画関係者10人)の一員として知られるダルトン・トランボが制作した唯一の監督作品。原作はトランボが1939年に発表し発禁処分を受けた小説(原題は『ジョニーは銃をとった(Johnny Got His Gun)』)で、主人公のジョー(ジョニーではない)を『ラスト・ショー』(1971)のティモシー・ボトムズが演じる。

ー目がない。目も、口も、歯も、舌も、鼻も。
ー顔に何もなくただえぐれている。

 病床で声にならない声を上げながら身悶え続けるジョー。その顔には、すっぽりと白い布が被せられている。第一次世界大戦に出征した彼は、敵の攻撃で目、鼻、口、耳、四肢を失って以来、15年にわたって「生ける屍」としてベッドに寝かされ続けているのだ。

 鎮静剤の力でカラフルな記憶の世界と暗闇に包まれたモノクロの現実を何度も往還するジョー。しかし、首と頭をほんのわずかしか動かせないジョーは、自身に意識があることすら他者に伝えることができない。そんな中、軍の医師団が、ジョーが発するモールス信号に気づく。

ー殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ…。

 意識が鮮明であるにもかかわらず、体が全く動かず、意思疎通を図ることもできないー。この地獄は、死ぬよりも恐ろしい状況と言えるかもしれない。

 なお、黒澤明作品の脚本などで知られる橋本忍は、本作に次のような感想を寄せている。

「この映画については何も話したくないし、何も喋りたくない。ただ一人でも、一人でも多くの人に見てもらいたい」

 一人の兵士の身体の中で永遠に続く戦争。そのあまりの恐ろしさに身慄いするばかりだ。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!