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小津安二郎の凄さとは? 映画技法の特徴を解説。代表作『東京物語』が海外の映画作家に与えた影響を考察【シネマの遺伝子】

text by 編集部

映画『東京物語』が英「史上最高の映画ベストテン・映画監督選出部門」で1位に選ばれ、今なお絶大な人気を誇る小津安二郎。しかし、そんな小津安二郎の映画だが、実際に見たという人はかなり少ないのではないだろうか。本稿では、その知られざる魅力に迫るとともに、彼に私淑していたドイツの映画監督・ヴィム・ヴェンダースについて紹介する。

唯一無二のスタイルに宿る普遍性〜小津安二郎作品の魅力

映画東京物語Getty Images

小津は1903年に東京・深川に生まれ、父親の故郷である三重県松坂市で育った。少年時代から地元の映画館に入り浸り、20歳で松竹蒲田撮影所に撮影助手として入社。助監督を経て監督に昇進。その後、29歳で大学生の就職難をテーマとした『大人の見る絵本・生まれてはみたけれど』がキネマ旬報ベストテンの1位に選出。戦後は『晩春』『麦秋』『秋刀魚の味』などの名作を世に送り出し、「小津調」と称される独自の作風を確立した。

さて、「小津調」の特徴としてまず挙げられるのが、イマジナリーラインにとらわれない切り返しショットである。イマジナリーラインとは、会話者同士をつなぐ仮想的な線のことで、空間的な位置関係が分かりづらくなるため演出的な意図がない限りこの線を越えることは御法度だとされている。

しかし小津の映画はこの原則に捉われず、話す登場人物をまるで肖像画のように真正面から捉える。また、計算し尽くされたモダンな映像美も忘れてはならない。小津の作品の大半を占める日本家屋のシーンは、カメラを低い位置に据える「ローポジション」で撮影され、さながらオランダの抽象画家ピエト・モンドリアンの『コンポジション』のように柱や襖の垂直線が際立っている。

なお、映画内に登場する小道具はほとんどが小津の私物で、登場する名画も全て本物。ここにも小津のこだわりが垣間見える。そして何より特徴的なのが、脚本家・野田高梧とともに生み出された脚本だろう。小津の作品は、ハリウッド映画のような分かりやすいドラマはなく、ありふれた家族の日常にフォーカスする。

しかし、よく観察すると、娘の嫁入りや親との死別といった最愛の家族との惜別が丹念に描かれている。小津は、厳密で落ち着いた構図の中に誰もが経験する無常感を忍び込ませるのである。なお、生前小津は、次のような言葉で自らの映画哲学を語っている。

「私は豆腐屋のような映画監督なのだから、トンカツを作れといわれても無理で、せいぜいガンモドキくらいだよ。」

この言葉通り、彼は生涯を通して、自らのスタイルを貫き通した。その普遍的な味は今もなお世界中で愛されている。

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