「小津安二郎の東京」を求めて〜
小津安二郎とヴィム・ヴェンダース
さて、そんな小津安二郎を敬愛してやまない映画監督がいる。ドイツを代表する世界的な映画監督ヴィム・ヴェンダースである。
ヴェンダースは1945年ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。1970年代以降、『都会のアリス』や『まわり道』など、数々のロードムービーの名作を世に送り出し、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーやヴェルナー・ヘルツォークと並んでニュー・ジャーマン・シネマの旗手に称されてきた。
また、1980年代には『ベルリン・天使の詩』がヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を、『パリ、テキサス』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。日本でもサブカルチャー界の寵児としてもてはやされた。
『ベルリン・天使の詩』では、ラストで小津安二郎に向けた献辞を記したことでも知られるヴェンダース。彼の留まることを知らない小津愛はその後、1本の映画に結実する。
1985年制作の『東京画』である。本作はヴェンダースが東京の映画祭に参加する滞在期間を利用して撮影したドキュメンタリー。「さすらいの映画作家」とも称されるヴェンダースが「小津の東京」を探し求め、その時目に留まったものを撮影するというコンセプトのもと作られている。
本作の注目は、なんといっても『東京物語』をはじめ数々の小津安二郎作品に参加した笠智衆と、名カメラマンとして小津を支え続けた厚田雄春へのインタビューだろう。
小津と自分は教師と生徒のようだったと語り感謝と尊敬の意を表す笠と、実際に50ミリのカメラで撮影を再現しながら小津映画の秘密について述べる厚田。いずれも歴史的な価値の非常に高いインタビューである。
なお、本作では、小津の東京と対比する形で、竹の子族やパチンコ、食品サンプルの工場など、バブル期の日本の文化を紹介。小津の作品に出てくる東京が資本主義によってアメリカナイズされてしまったことを述べている。
ヴェンダースは、小津安二郎作品には「優しさと秩序」があると語る。当時からさらに40年を経た今、「小津安二郎の東京」は残っているだろうか。