これぞ求めていた完璧な岩田剛典…ドラマ『フォレスト』の名演を徹底解説。度重なるカメラの「前進移動」が生んだ映像効果とは?
比嘉愛未&岩田剛典がW主演を務めたドラマ『フォレスト』(ABCテレビ・テレビ朝日系)。幸せなカップルがそれぞれ抱える「嘘」により人間不信の森(フォレスト)へ迷い込むサスペンスドラマだ。とりわけ岩田剛典の芝居は視聴者までも疑心暗鬼に引き込んだ。今回は、ドラマを振り返りながら岩田の役者としての魅力に迫る。(文・加賀谷健)
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【著者プロフィール:加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修
クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。 女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CMやイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、 テレビドラマ脚本のプロットライターなど。
2025年から、アジア映画の配給と宣伝プロデュースを手がけている。
日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
ワンフレーズで的確に醸して煎じる疑心暗鬼の場面
端からみたら幸せそうな恋人たちでも、その実ふたりだけにしかわからないことがある。岩田剛典と比嘉愛未W主演ドラマ『フォレスト』(朝日放送テレビ)は、自分たちが信じてきたはずの関係性が、ゆるやかに歪み、じわりじわりと疑心暗鬼になる様子がサスペンスフルに描かれる。といっても疑心暗鬼になるのは、もっぱら幾島楓(比嘉愛未)の方である。
ホテルグループ「ブランフォレスト」の跡取り娘である楓は、3年前、グループが経営するホテルで起きた食中毒事件に責任を感じて会社から身を引いた。それで今は、小さなクリーニング店を営む一ノ瀬純(岩田剛典)とひっそり幸せな生活を送っていた。
そこへ再び楓の母でグループ社長である幾島鈴子(松田美由紀)が強権的存在をちらつかせ、楓は因縁の過去に一気に引き戻される。食中毒事件の犯人が愛する純なのではないか。などなど、楓が嫌う幾島家にやたら接近しようとする純に対して疑いの眼差しを向ける。
疑心暗鬼を生み出す当の本人はどうだろうか。恋人たちにとって当たり前の風景であるはずの寝室ベッド上、楓を抱く純が怪しげに目を開ける。果たして彼は嘘をついているのか。特に意味ありげな開き方をする第4話では、次のカットで何事もなかったように純が「晩ご飯何食べたい?」とからっと晴れやかに聞く朝の場面がある。
その語頭「晩ご飯」と語尾「たい?」がやや強く、意識的にはっきり発音されていることに視聴者ですら疑心暗鬼になる。岩田剛典は、このワンフレーズだけでドラマ全体の空気感を的確に醸して煎じるのだ。