アニメは、もう1つの世界作り
『ハケンアニメ!』(2022)
原作:辻村深月
監督:吉野耕平
脚本:政池洋佑
キャスト:吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里佳、古館寛治、前野朋哉
【作品内容】
地方公務員からアニメ業界に転身した新人監督の斎藤瞳(吉岡里帆)は、デビュー作『サウンドバック 奏の石』で、現在崖っぷちのスター監督・王子千晴(中村倫也)と争うことに。「覇権(ハケン)」と呼ばれる称号を手にするため奮闘するのだが、次々と難題が襲う。
【注目ポイント】
世界に名を馳せ、その市場規模は3兆円越え(2023年度)と、過去最高を記録し続ける日本のアニメ産業。覇権(=ハケン)とは、クール及び1年間の売り上げ1位、つまりテッペンの作品のことである。
ハケンを狙う新人監督・瞳を演じる吉岡里帆の熱演で、こちらまで胃が痛くなる。そして驚く。やることが多すぎる、アニメって!!
コンテ撮り、作画打ち合わせ、美術・CG打ち合わせ、撮影etc、アテレコ…。映画では、その分担作業が細やかに描かれており、息がつまるような切迫感が押し寄せる。
時間が足りないなか、クセモノの職人たちによってつくられた、美しくもバラバラの風景が、これまたクセモノのまとめ役たちによって一つ一つ重なり、宣伝され、世の中に広まっていく――。
リアルではありえないことが展開されるアニメ世界に、救われる人は多い。そして、救われた人のなかから、次の覇権を狙うクリエイターが出てくる。
『運命戦線リデルライト』のプロデューサー・有科香屋子(尾野真千子)のセリフ、
「監督って本当にすごい。世界をまるごと創る神様みたいじゃないですか」は、まさに。
でも、神様はひとりでは世界を創れない、ということを、瞳や王子観てを痛感する。伝えるって、本当に難しい。
アニメに限らず、クリエイターの出発点は「伝われ!」という願いなのではないか。
(文・田中稲)
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【了】