独特な存在感と卓越した演技力が光る

井浦新

井浦新
井浦新 写真:武馬怜子

 他の俳優と一線を画す独自のポジションを築いている井浦新。若松孝二監督作品で割腹前の三島由紀夫を演じたかと思いきや、民放ドラマでは主人公を側で見守るキャラクターに扮し、安定感のある芝居を披露したりする。ポジティブな意味で掴みどころのない役者である。

 そんな井浦のドラマの代表作といえば『リッチマン、プアウーマン』(2012、フジテレビ系)、『アンナチュラル』 (2018、TBS系)、『最愛』(2021、TBS系)だろう。これら近年の民放ドラマでも出色の出来栄えを誇る作品で井浦は、主役級の存在感を見せつけた。

『リッチマン、プアウーマン』では、主人公・日向徹(小栗旬)の共同経営者であり、親友でもある朝比奈恒介役を演じた。複雑な内面を持つ役を繊細に演じ、視聴者から高い評価を得た。ネットでは「日向派」「朝比奈派」と盛り上がるほどだった。

 法医学をテーマにした社会派ドラマ『アンナチュラル』ではクールな解剖医・中堂系を熱演。態度が悪く口も悪いことから、周囲と衝突することも少なくないが、かつて恋人を殺害された凄惨な過去があり、事件の真相を今でも追い求めている。そんな中堂はドラマの”裏の主役”ともいうべき存在だった。

 そして『最愛』では、吉高由里子演じる主人公・梨央を支える弁護士役という超重要な役どころだった。梨央を身を挺して守り献身的に支え続けている姿に”沼った”視聴者が続出。考察が盛り上がった同作だが、その衝撃の結末を今でも受け止めきれない人も多いだろう。

 また個人的には『アンメット ある脳外科医の日記』(2024、カンテレ・フジテレビ系)での出演も記憶に新しい。井浦は、事故により記憶障害を発症した主人公の脳外科医・ミヤビ(杉咲花)の主治医であり、旧知の仲でもある大迫を演じていた。
 
 大迫は、ミヤビに優しく接すると同時に、何かを隠している。傍目には物腰柔らかで優しいのにミステリアスな空気を纏う。こういう役を演じさせたら井浦の右に出る者はいない。シーンによって光と陰を使い分ける芝居はドラマに見事にマッチしていた。

 独特な存在感と卓越した演技力で、幅広い層から高い評価を得ている井浦。シリアスな役からコミカルな役まで、多様な役柄を演じ分け、声質や透明感のある佇まいと、どんな役でも自分のものにしてしまう演技力が名作を引き寄せるのだろう。

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