時代を動かした異色のSF時代劇

『侍タイムスリッパー』(2023)

山口馬木也
山口馬木也 写真:武馬怜子

監督:安田淳一
キャスト:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎、紅萬子、福田善晴

【作品内容】

 幕末の京都で落雷により現代の時代劇撮影所へとタイムスリップした会津藩士・高坂新左衛門。江戸幕府の滅亡に衝撃を受けるも、人々の優しさに支えられ、生きる気力を取り戻す。やがて剣の腕を活かし、斬られ役として新たな人生を歩み始める。

【注目ポイント】

 封切りは1館から始まり、SNSの口コミによって約1カ月の間に全国100以上の映画館に公開規模を拡大させた『侍タイムスリッパー』は、日本アカデミー賞、最優秀作品賞&最優秀編集賞を獲得し、名実ともに2024年を代表する日本映画の1本となった。

 大ヒットの要因はひとえに安田淳一監督の努力にある。自身の貯金を切り崩し、車を売って捻出した制作費はたったの2600万円。時代劇の長編映画を制作するのは無謀とされる金額である。

 監督、脚本、撮影、照明、編集、出演を一手に引き受けた安田監督は、東映の京都撮影所に関わる関係者に脚本を読んでもらい、脚本のクオリティに惚れ込んだ関係者の協力をもらったことで、低予算での制作を実現させた。

 東映のバックアップがあったとはいえ、三大メジャー配給会社(東宝、東映、松竹)とは異なるルートで製作された作品が日本アカデミー賞作品賞を受賞するケースは珍しい。本物の時代劇を残したいという監督の熱意が時代を動かしたと言っても過言ではない。

 サブスクの配信もスタートし、劇場に足を運ばないユーザーまでも鑑賞する機会が増えてもなお、映画館での上映は終わっておらず興行収入は10億円を突破している(2025年3月現在)。未見の方はぜひご覧いただきたい。

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