俳優・伊藤健太郎の唯一無二の魅力とは? 台詞回しが完璧…視聴者の記憶に残る演技を徹底解説

text by 加賀谷健

ドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系、2018)やNHK連続テレビ小説『スカーレット』などに出演する伊藤健太郎。フラットなセリフ回しや感情表現など、無駄のない自然な演技スタイルで名演技を更新し続けている。今回は、過去の出演作を振り返りながら、俳優・伊藤健太郎の魅力を紐解いていく。(文・加賀谷健)

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【著者プロフィール:加賀谷健】

コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修
クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。 女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CMやイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、 テレビドラマ脚本のプロットライターなど。
2025年から、アジア映画の配給と宣伝プロデュースを手がけている。
日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。

キャラクターの本質を暴く伊藤健太郎の演技

伊藤健太郎
伊藤健太郎【Getty Images】

 伊藤健太郎が漫画の編集者を演じる主演ドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』(フジテレビ系、2025、以下、『未恋』)第3話で、主人公のキャラクター性に関わる重要な台詞が疑問形で提示される。ヒット作を連載する人気漫画家・深田ゆず(弓木奈於)の担当編集であり、恋人でもある高坂健斗(伊藤健太郎)が、中途入社してきた鈴木みなみ(愛希れいか)とランチがてら会話する場面。深田ゆずファンであるみなみに軽く意見を求めたつもりが、逆に本質的な問いが返ってくる。

 健斗とみなみは編集者になる前、小説家志望者が集まる夏合宿で作家を目指した気が置けない仲だが、みなみから「健斗はどうしてそんなに働くの?」と聞かれ、彼は痛いところを突かれる。「会社員だから」と答えた健斗がさらに「暇が怖い」と続けるこの問答によって、高坂健斗というキャラクターの行動原理が紐解かれ、健斗役の伊藤健太郎もまたいかにキャラクター性に忠実に振る舞い、なおかつスマートな演技に徹しているかが明らかになる。

「暇が怖い」という行動原理にしたがって、デスクワーク中の健斗は、パソコン画面と手元資料を交互に眼差し、一切の隙間時間を作らない。伊藤の動きにもまったく無駄がない。第2話で、ゆずから「普通のデート」がしたいと言われる場面でも顕著だ。健斗が返答するまでの間、伊藤は、過不足ない間合いでシーン間を持続、調整しながら、鼻をすする。口元をむにゅっと柔らかく微動させ、相手にパッと視線を向ける。「どこまでが計算で、どこからが感覚的なものなのか?」と伊藤本人に問いただしたいくらい非の打ち所がない。

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