魅力がざくざく掘れる宝庫としてのラブコメ作品
動きだけではない。台詞の発し方にも無駄がない。ぼくが一番感心したのは、第3話で、共同生活がお互い馴染んできた健斗とゆずが囲む朝食場面である。食卓には目玉焼きが並ぶ。二人とも目玉焼きに醤油をたらすが、健斗への不満がつのるゆずはご機嫌ななめで、実はマヨネーズ派だと主張する。「暇が怖い」というキャラクター性のせいで、健斗はゆずの感情の機微を捉えきれていない。
あげく「それだと卵オン卵になってしまうよ」と片言口調で、的確なツッコミまで入れてしまう。「いやいやそうじゃないんだよ!」と視聴者が思わずツッコミを入れたくなる。ただ、この会話場面での伊藤の台詞回しは完璧である。台詞のフレーズ前半は棒読みスレスレでフラットに、後半でたたみかけて抑揚をつけ、語気も微妙に強める。それを自然にまとめあげてしまう。聞き逃してしまいそうになる台詞の細部だが、こうしたフラットな台詞回しが簡単にできてしまう。
第4話冒頭には、再度夏合宿の回想場面が置かれる。参加者が打ち上げで盛り上がる中、縁側に座ってビールを飲む健斗とみなみは静かなトーンで会話する。健斗が立ち上がり、振り返る。たったこれだけの動作で、伊藤は、画面上にその存在を浮き上がらせてしまう。浮き上がるといえば、漫画の1コマとしてフレーミングされた伊藤が、効果音とともにイラスト化するオープニングタイトル画面も印象的。イラストになっても生々しい存在感は花やぐ。という具合に、本作は伊藤健太郎がいちいち魅力的で、彼の魅力がざくざく掘れる宝庫としてのラブコメ作品なのだ。