常にきらめく演技の数々がある


 一見、ライトなタッチのラブコメ作品に見えて、その実、伊藤健太郎の魅力がぎっしり詰め込まれた重量感。現在までに俳優としてキャリアを積んできた伊藤の見本市的作品というか、過去作のきらめきをひとつひとつ丁寧に嵌め込んだかのような、軽やかな集大成として本作を位置付けるべきだと思う。

 シンプルでいてパキッとあざやかな伊藤の才能については、工藤遥と共演したボルダリング映画『のぼる小寺さん』(2020)の古厩智之監督から個人的に聞いている。同作の冒頭場面ワンショット目からほんの数カットを確認すれば明らかなように、クリアな視線ひとつで演技を成立させてしまう。現在のような無駄のないスタイルが明確化した『のぼる小寺さん』をターニングポイントとして、それ以前以後の視点で伊藤の演技の本質的部分に迫れる気がする。とはいえ、同作以前の出演作であり、「健太郎」名義時代の代表作『アシガール』(NHK総合、2017)を今さら持ち出す必要はないだろう。むしろ『のぼる小寺さん』以後の作品、同じNHK作品である大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合、2024)のさりげない名演を確認しておけば事足りる。

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