製作中止と会社倒産のダブルパンチ
『一九〇五』
監督:黒沢清
出演:トニー・レオン、松田翔太、前田敦子
【注目ポイント】
トニー・レオンが日本映画初主演となる予定だった映画『一九〇五』。監督は黒沢清が務め、松田翔太と前田敦子の共演を予定していた。物語は1905年の横浜を舞台に、国境を越えて運命的に交差する二人の男と一人の女の姿を描いたアクションドラマだ。
製作が発表されたのは2012年のこと。同年11月にクランクイン、日本と台湾で撮影が行われる予定だった。また、クランクインアップは2013年1月を予定しており、2013年の秋に公開を目標にしていた。現代日本を代表する映画作家である黒沢清とトニー・レオンがタッグを組むということで「楽しみだー!!」と公開を心待ちするファンが多かった。
しかし、政治問題が製作を揺るがす。それは、尖閣諸島をめぐる、日本・中国間の領土問題だ。長きに渡って日本と中国を緊張感のある対立に導いてきたこの問題の再燃によりトニー・レオンの降板が発表され、作品の製作自体、中断を余儀なくされるハメに。
企画から配給全てを担っていた映画配給会社プレノン・アッシュの資金繰りも悪化し、東京地方裁判所から破産手続き開始の決定が下され、残念ながら製作は中止となった。
ちなみに「プレノン・アッシュ」は、1990年代にウォン・カーウァイ監督の映画『恋する惑星』『天使の涙』『欲望の翼』などを日本に送りこみ、香港映画ブームの火付け役となった配給会社である。
あの時期、香港映画に魅了された多くの人々にとって、プレノン・アッシュの存在は欠かせないものであった。優れた香港映画が日本で広く紹介される土台を作った功績は計り知れない。
領土問題によって映画『一九〇五』が幻になり、日本における香港映画ブームの火付け役となった会社は倒産した。このダブルパンチが、当時の映画ファンに与えたショックは想像を絶するものがある。