史上最高の日本のバイオレンス映画は? 衝撃の傑作5選。背筋が凍るほど恐ろしい…血塗られた名作をセレクト

text by 村松健太郎

暴力はいかなる理由があっても是認されるものではない、人類が文明社会、法治国家の維持を目指し続ける限りそれは揺るがないものである。しかし、その一方でどの人間もその内側に“暴力性”というものを秘めている。そんな人間の暴力性が発露される様を描いたバイオレンス描写が印象的な邦画をご紹介する。(文・村松健太郎)

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【著者プロフィール:村松健太郎】

脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。

無秩序で見事なまでの暴力描写

『仁義なき戦い』(1973)

菅原文太
菅原文太【Getty Images】

監督:深作欣二
脚本:笠原和夫
原作:飯干晃一
出演:菅原文太、松方弘樹、渡瀬恒彦、田中邦衛、金子信雄、梅宮辰夫

【作品内容】

 終戦直後の広島。復員兵の広能昌三(菅原文太)は、山守組々長・山守義雄(金子信雄)に気に入られ、組に迎え入れられる。そうして広能は、敵対する土居組との抗争に明け暮れていく…。

【注目ポイント】

 飯干晃一の同名ノンフィクションを原作に、深作欣二が映画化した記念すべき一作。従来のスタジオ撮影とは一線を画す、ロケーションを多用したドライで現実的な作風は、当時の日本映画界において極めて革新的だった。この作品を皮切りに、シリーズは最終的に5部作へと拡張され、社会現象と呼べるほどの影響を及ぼした。

 主演の菅原文太をはじめ、松方弘樹、田中邦衛、渡瀬恒彦、梅宮辰夫らが出演。いずれもこの作品をきっかけに、スターとしての地位を確立していくこととなる。

『仁義なき戦い』以前の任侠映画は、美学的ヒーロー像を前提とした勧善懲悪の世界観に支えられていた。しかし、本作はその形式を大胆に解体。実際のヤクザ抗争に基づいた“実録路線”へと舵を切り、任侠映画のあり方を根底から覆した。

 舞台は戦後の混乱期にある広島。青春の時期を戦争に奪われた男たちが、後戻りのできない道へと踏み込んでいく姿が、組織と縄張りを巡る苛烈な抗争劇の中で描かれる。ここではもはや「仁義」などという美徳は存在しない。利権と保身が最優先され、暴力は唐突かつ機械的に発動される。

 そしてその暴力は、市民の生活が息づく街中で容赦なく繰り広げられる。引き金はためらいなく引かれ、巻き添えを恐れずに鮮血が飛び散り、市街地が戦場と化す光景は、それまでの任侠映画にはなかった生々しさを放っている。

 以降も深作欣二は、バイオレンスを軸にした強烈な作品を次々と発表。『仁義なき戦い』が集団の力学を描いたのに対し、徹底的に個人を追い詰めた『仁義の墓場』(1975)や、中学生同士が最後の一人になるまで殺し合うという衝撃的な内容で遺作となった『バトルロワイアル』(2000)など、その手腕は時代を越えて語り継がれている。

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