生きるか死ぬかー
究極のバイオレンス
『GONIN』(1995)
監督:石井隆
脚本:石井隆
出演:佐藤浩市、本木雅弘、根津甚八、竹中直人、椎名桔平、ビートたけし、木村一八、鶴見辰吾永島敏行
【作品内容】
バブルが崩壊し、社会から取り残された5人の男が人生をかけて一発逆転の賭けに出る。暴力団の事務所から金を奪った5人は、奪った金を山分けして、新しい人生に踏み出すはずだったが…。
【注目ポイント】
マンガ家であり脚本家でもある石井隆は、1988年に『天使のはらわた 赤い眩暈』で長編映画監督として鮮烈なデビューを果たした。その後も独自の美学を貫き、多くの話題作を世に送り出していく。
そんな石井のキャリアの中で特異な輝きを放つのが、俳優・竹中直人の発案によって企画が始動した『GONIN』(1995)だ。竹中は自身の映画初主演作である『赤い眩暈』で石井とタッグを組んだ縁から、このプロジェクトを持ちかけたという。
竹中の着想には、クエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』へのオマージュ的な意図があったとも語られている。本作には竹中のほか、佐藤浩市、本木雅弘、根津甚八、椎名桔平らが出演し、さらにはビートたけし、木村一八、鶴見慎吾、永島敏行といった錚々たる顔ぶれが揃い、硬派で男臭い空気感を一層際立たせた。
物語は、社会からこぼれ落ちた5人の男たちがヤクザ相手に無謀な強盗計画を仕掛けることから始まる。当然、計画は失敗。報復として放たれた二人の殺し屋(たけしと木村)によって、仲間たちは次々と命を落としていく。彼らにとって、もはや失うものなど何もない。暴走する狂気と容赦のない報復劇が、終始圧倒的な暴力描写とともに展開される。
平成の幕開けとともに、バイオレンス描写に“スタイリッシュさ”が取り入れられはじめた時代。本作も例外ではなく、土砂降りの雨、街のネオンサインなど、石井隆作品ならではのヴィジュアルが妖しくも美しい世界観を作り出す。暴力の中にほんのりと薫る“妖しげな香り”——性的な気配を感じさせる描写は、当時の邦画において極めて稀有な存在感を放っていた。
本作は劇場公開後、レンタルビデオ市場でじわじわと人気を集め、結果としてシリーズ化される。メインキャストを全て女性に置き換えた『GONIN2』(1996)では、大竹しのぶや余貴美子らが主演。そして2015年には、初作のキャラクターとの繋がりを持つ『GONIN サーガ』が公開。俳優業を引退していた根津甚八も、この作品のために特別に復帰を果たした。
石井隆が描いた“美と暴力”の極限。それは今なお、多くの映画ファンの記憶に強く刻まれている。