映画史に刻まれた壮絶な死闘
『十三人の刺客』(2010)
監督:三池崇史
脚本:天願大介
出演:役所広司、松方弘樹、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、高岡蒼甫、六角精児、波岡一喜、近藤公園、石垣佑磨、窪田正孝、伊原剛志、光石研、吹石一恵、谷村美月、斎藤工、阿部進之介、内野聖陽、岸部一徳、平幹二朗、松本幸四郎、稲垣吾郎、市村正親
【作品内容】
江戸時代末期。暴君・松平斉韶(稲垣吾郎)の暗殺を命じられた島田新左衛門(役所広司)は、刺客を集めて準備に取り掛かる。しかし、暗殺計画を阻止しようと鬼頭半兵衛(市村正親)が立ちはだかり…。
【注目ポイント】
1963年に公開された工藤栄一監督・片岡千恵蔵主演の名作を、三池崇史監督が半世紀を経てリメイクした『十三人の刺客』(2010)。主演の役所広司を筆頭に、松方弘樹、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、伊原剛志、斎藤工、内野聖陽、平幹二朗、松本幸四郎(先代)、市村正親、そして稲垣吾郎といった錚々たるキャストが顔を揃えた豪華時代劇である。
物語の舞台は、江戸時代後期。将軍の異母弟・松平斉韶は暴虐無道を極めた人物ながら、老中就任が内定しているという立場にあった。その資質に危機感を抱いた幕閣たちは、密かに暗殺計画を立案。任を託されたのは、御目付役の島田新左衛門。彼は知略と剣術に長けた十三人の精鋭を集め、参勤交代の途上で斉韶を討つという命がけの作戦を開始する。
本作最大の見どころは、後半約50分に及ぶ壮絶なクライマックス。宿場町全体を罠と仕掛けに満ちた要塞へと変貌させた新左衛門たちと、圧倒的な兵力で進軍する斉韶一行との、執念と誇りを賭けた死闘が繰り広げられる。その激しさと持続力は、時代劇史上屈指の殺陣シーンと称されるにふさわしい。
この作品が語り継がれる最大の理由は、稲垣吾郎が演じる松平斉韶の狂気的な存在感にある。当時、稲垣はアイドルとしてのイメージが強かったが、それを完全に裏切る怪演で観客を圧倒。命の重みを嘲笑うかのような斉韶の非道を生々しく体現し、作品全体に張り詰めた緊張感を与えている。
また本作における暴力表現の特異性として、“身分制度に基づく一方通行の暴力”が挙げられる。どれほど非道な振る舞いであっても、上位者の暴力には逆らえないという封建的秩序の残酷さが、現代劇では描き得ない独特の重みをもって観る者に迫ってくる。
Vシネマやバイオレンス映画でキャリアを築いてきた三池崇史監督だけあって、暴力描写に対するスタンスは遠慮のない徹底ぶり。時代劇というフォーマットの中で、古典と現代的感性を融合させたその演出は、日本映画における新たな「暴力のかたち」を提示した作品としても高く評価されている。