目的のない純粋な狂気
『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)
【作品内容】
愛媛県松山市の港町で暮らす芦原泰良(柳楽優弥)は、強そうな相手を見つけては喧嘩をふっかけていた。そんな泰良に興味を持った北原裕也(菅田将暉)は、2人で危険な遊びを始める…。
【注目ポイント】
大学在学中から数々の映画祭で注目を集めてきた真利子哲也監督の単独長編第2作『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)。主演の柳楽優弥をはじめ、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、北村匠海、池松壮亮といった、当時新進気鋭の若手俳優たちが顔を揃えた本作は、その異質な暴力描写と共に日本映画界に衝撃を与えた。
物語の舞台は港町。柳楽演じる芦原は、街を徘徊しながら無差別に喧嘩を仕掛けるという破滅的な日常を送っている。そんな芦原に魅せられた高校生・北原(菅田将暉)は彼と行動を共にするようになり、二人の暴力はやがて世間の注目を浴び、警察に追われる存在へと変わっていく。
旅路の途中で出会ったキャバクラ嬢・那奈(小松菜奈)、芦原の行方を追う弟・将太(村上虹郎)もまた、否応なくこの狂騒に巻き込まれていく。物語は加速度的に暴力と混乱へと向かい、出口のない破滅のスパイラルが展開される。
本作で描かれる暴力は、従来の映画のように「目的」や「動機」を与えられていない。それはあくまで「理解の外側」に存在する、観客の感情や理屈では捉えきれない異質なものだ。真利子監督自身は「暴力を描いたのは、それを言葉にできなかったから」と語っており、映画を通して答えを提示するのではなく、観客一人ひとりに疑問を投げかける構造を意図したという。
主演の柳楽優弥にとって本作は、俳優としての大きな転機でもあった。『誰も知らない』(2004)で史上最年少のカンヌ国際映画祭男優賞を受賞しながらも、その名声の重圧に苦しんだ時期を経て、本作で暴力性と虚無を併せ持つ危ういキャラクターを圧倒的な存在感で体現。刹那的かつ狂気的な演技は高く評価され、キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞をはじめとした多くの映画賞を受賞するに至った。
なお、タイトルにある「ディストラクション(Distraction/Destruction)」は、“気晴らし・動揺”を意味する「Distraction」と、“破壊”を意味する「Destruction」という、発音の近い二語のダブルミーニングが込められているとも解釈されている。
本作に限らず、日本映画には激しい暴力描写を通じて強烈な印象を残す作品が数多く存在する。ビートたけし主演の『血と骨』(2004)、ヤクザ映画の新たな地平を切り拓いた『孤狼の血』シリーズ(2018〜)、映画評論家・高橋ヨシキが監督を務めた『激怒』(2022)、そしてNetflix映画として注目を集めた生田斗真主演の『Demon City 鬼ゴロシ』(2025)など、その系譜は脈々と受け継がれている。
(文・村松健太郎)
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【了】