視聴者の神経を逆撫でする名演技
源仲章(生田斗真)『鎌倉殿の13人』
『鎌倉殿の13人』は、2022年に放送された三谷幸喜脚本による大河ドラマ第3作。物語後半、後鳥羽上皇(尾上松也)の側近として登場したのが、生田斗真演じる源仲章だ。
仲章が姿を現したのは、第三代将軍・源実朝の後継問題が本格化し、幕府内外の緊張が高まるタイミングだった。後鳥羽上皇の側近という立場にありながら、鎌倉幕府の中枢にも食い込もうとするその姿には、あからさまな野心がにじんでいた。
中でも、執権・北条義時(小栗旬)に対する挑発的な言動は、視聴者の神経を逆撫でしたが、それこそが生田斗真の演技力の見せどころだった。「北条殿〜」と親しげに距離を詰めつつ、内心では義時を見下すような表情の奥行きや、義時の妻・のえ(菊地凛子)にさりげなく近づき探りを入れるなど、その立ち回りは狡猾さに満ちていた。
仲章の慇懃無礼な態度や権力への執着心は、あからさまな不快感を視聴者に与え、本作における“嫌われ役”として圧倒的な存在感を放った。
実際、小栗旬が朝の情報番組『あさイチ』(NHK総合)に出演した際、「あのときは本気で“殺す”って思いましたね」と笑い交じりに語ったエピソードもある。これは裏を返せば、生田の演技がいかにリアルで憎々しかったかを示す、最大級の賛辞に他ならない。
そして迎えた仲章の最期――実朝が暗殺される直前、彼が放った「寒い、寒いぞ、寒いんだよ!」という断末魔の叫びには、それまでの冷淡さとは対照的な“人間らしさ”がにじんでいた。その意外な弱さは、彼を単なる悪役にとどめず、視聴者の心に深く刻まれる印象的な幕引きとなった。