狂気をまとう嫌われ役を好演
鶴屋喜右衛門(風間俊介)『べらぼう』
2025年放送中の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』において、主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)の前に立ちはだかる大きな壁として描かれているのが、風間俊介演じる地本問屋の鶴屋喜右衛門である。
鶴屋は、江戸の出版業界を束ねる地本問屋組合のリーダー的存在。表向きは物腰柔らかく、誰に対しても笑顔を絶やさないが、その眼差しには常に底知れぬ企みを感じさせる。新規参入を図る蔦重にとって、鶴屋はまさに手強い存在となる。
とりわけ、蔦重が吉原細見の価格を半値にするという破格の戦略を打ち出した際、鶴屋は「ではまず、見せていただきましょうか。その倍売れる細見を」と穏やかな笑みで応じる。だがその瞳は一切笑っておらず、まるで底冷えするような冷徹さがにじむ。このシーンは、風間がかつて『3年B組金八先生』で演じた兼末健次郎の狂気を思わせる、と視聴者の間で話題となった。
しかし鶴屋の行動は、単なる意地悪や権力争いではない。蔦重の革新的な試みによって既存の出版秩序が崩されることを危惧し、自らの信じる「正しさ」を守ろうとしているとも解釈できる。
実際、風間はインタビューで「鶴屋は本音と建前を愛している人。裏で何を考えているのか想像しながら見てほしい」と語っている。さらに「鶴屋には鶴屋の正義がある。自分たちの立場からすれば、許せないこともある」とも述べており、鶴屋が業界を守るという明確な信念のもとに動いていることがうかがえる。
その“食えない”笑顔と裏腹な言動に、視聴者は苛立ちすら覚えるが、同時に目を離せない不思議な魅力を感じる。風間俊介の繊細かつ緻密な演技によって、鶴屋喜右衛門は単なる敵役にとどまらず、物語を支える奥深い人物像として際立っている。
(文・編集部)
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