「二度と観たくない」と思わせるほどの後味の悪さ

『胸騒ぎ』(2022)

クリスチャン・タフドルップ監督
クリスチャン・タフドルップ監督

監督:クリスチャン・タフドルップ
キャスト:モルテン・ブリアン、スィセル・スィーム・コク

【作品情報】

 イタリアで出会い、親交を深めたデンマーク人夫婦とオランダ人夫婦。再会を果たすため、デンマーク人夫妻は招かれるまま、オランダの田舎にある彼らの家を訪れる。久々の再会を喜びながら始まった週末の滞在だったが、やがて相手の言動に小さな違和感が積み重なっていく。

 ささいな不快感に目をつぶりながらも、礼儀や気遣いからその場を離れられず、やがて“おもてなし”は予想もしない不穏さを帯び始める。断ることも、逃げ出すこともできないまま、恐怖に包まれていく一家。ただひとつ願うのは、週末が一刻も早く終わることだった――。

【注目ポイント】

 イタリアで出会った家族からの招待を受け、人里離れた家を訪れたデンマーク人一家が体験する、悪夢のような週末――それが本作『胸騒ぎ』の全てである。一見すると親切に見える“おもてなし”の裏側に潜む狂気。そして、違和感が少しずつ不快感へと変わり、やがて精神をじわじわと追い詰めていく構成は、観る者の心を確実に蝕んでいく。鑑賞後には「二度と観たくない」と思わせるほどの、強烈な後味を残す作品だ。

 物語は、休暇中に知り合ったオランダ人家族から招待を受け、彼らの自宅を訪れたデンマーク人夫婦、ビャアンとルイーセを中心に展開する。再会を喜ぶはずの週末だったが、迎え入れたオランダ人夫婦・パトリックとカリンの言動には、どこか奇妙で不自然な違和感が漂っていた。

 たとえばヴィーガンであるルイーセに無理やり肉を食べさせる、娘のアウネスを不適切な状況に置くなど、“善意”を装った行為が目立ち始める。しかしビャアン夫婦は「失礼にあたるかもしれない」との思いから、相手の振る舞いに異を唱えることができない。この“気まずさを避けるために不快に耐える”構造こそが、本作の最大の恐怖の入口である。

 やがてパトリック夫妻の“もてなし”はエスカレートし、ビャアン一家の行動をコントロールし、束縛するようになっていく。言葉巧みに引き留められ、何度も逃げ出す機会があったにもかかわらず、彼らはその場にとどまる。そして、ようやく異常に気づき脱出を試みた時にはすでに遅く、車には細工が施され、脱出不可能な状況へと追い込まれていくのだ。

 この圧迫感は、いわゆるスプラッター系ホラーとは異なる。もっと静かで、もっと生々しい。観る者の胸を締めつけるような息苦しさと、倫理の崩壊がもたらす絶望がじわじわと染み込んでくる。

 そして物語の終盤、オランダ人夫婦の“子ども”にまつわる、恐るべき秘密が明かされる。そこに至って初めて、本作が描こうとしていた真の悪意が姿を現す。その結末はあまりにも衝撃的で、観る者の心に深く傷を残す“トラウマ級”の破壊力を持っている。

 なお、本作の持つ“静かに精神を削る恐怖”は、2024年に公開されたハリウッドリメイク版『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』にも引き継がれている。こちらはオリジナルとは異なる結末を迎えるため、新たな視点で恐怖体験を楽しめる一作としても注目されている。

(文・阿部早苗)

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【了】

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