カリスマアイドル主演のサイコサスペンス

『ボーダー 犯罪心理捜査ファイル』(日本テレビ系、1999)

中森明菜
中森明菜【ワーナーミュージック・ジャパン公式Instagramより】

脚本:森岡利行、江頭美智留
演出:上川伸廣、田中壽一、岡本浩一
出演:中森明菜、筒井道隆、根津甚八

【作品内容】

 警視庁捜査一課特殊犯罪捜査係にプロファイラーとして派遣された杉島桐恵(中森明菜)は、捜査一課の刑事・辻良介(筒井道隆)とコンビを組み、猟奇事件の捜査にあたる。

 桐恵はプロファイリングを用いて数々の犯罪を解決に導いていくが、ときに異常なまでに犯人を追い詰めてしまうことも。そこには、彼女が幼い頃に直面した惨酷な事件へのトラウマがあった――。

【注目ポイント】

 女性プロファイラーがさまざまな猟奇犯罪に身を投じていく、サイコサスペンスドラマ『ボーダー 犯罪心理捜査ファイル』(日本テレビ系)。主演は、「ザ・王道アイドル」とは一線を画す、クールかつダークなカリスマ性で一世を風靡した中森明菜。

 中森が演じる主人公・杉島桐恵は、当て書きかと思うほどに彼女のパブリックイメージとフィットするキャラクターだった。

 本作が放送された1999年は、バブル崩壊後の「失われた10年」、そして人類滅亡を示唆する「ノストラダムスの大予言」にあたる年で、明るい展望が持ちにくかった時代。その薄暗く閉鎖的な空気感は、作品にも反映されていて。作中で、「昔は誰もが希望的な未来を夢見ている子どもだったのに、今の子どもは可哀想だ、暗い夢しか見られない」なんて大人が憂うシーンがあったくらいだ。

 事件の内容は、電動ノコギリで人を生きたままバラバラにするショッキングなものから、殺した女性の乳房を具にしてスープを作る狂乱的なものまで、多岐にわたる。そのサディスティックな所業には背筋が凍るが、なかでも最も目を引いたのは第3話「美少年に死の接吻を」だ。

 藤原竜也演じる男子高校生が、愛する親友を自分に好意を持つ男性医師にエンバーミング(腐敗を防ぎ、生前の姿に補正して保存する技術)させ、自らも若く綺麗なままで生命を終わらそうとする。3人の男性をとりまく、魅惑的なエピソード。藤原が棺桶に入った全裸の親友にキスを落とすシーンが、狂気をはらみながらも、格別に麗しい…。

 当初10話の予定だったものの、中森の収録中の事故やインフルエンザへの罹患など、度重なるアクシデントで1話短縮されたという。 消えた“1話”が気になるところだが、冷たい余韻がさめやらぬ本作を、ぜひ堪能してみてほしい。

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