悟空の正体に繋がる伏線回収の妙
悟空は実はサイヤ人で尻尾があり、満月を見ると大猿になる
少年期の悟空には尻尾があり、満月を見ると大猿に変身するという謎の特性があった。読者の誰もが当初は「なんだそりゃ!?」とツッコまずにはいられなかったに違いない。しかしこの“異常性”こそが、後に明かされる悟空の出自――地球人ではなく戦闘民族サイヤ人であるという真実――へと繋がる、見事な伏線だったのだ。
この伏線回収がいかに巧妙だったかというと、鳥山明氏は本来、悟空とマジュニア(初代ピッコロ大魔王の転生体)との死闘を描いた「第23回天下一武道会編」で物語を完結させるつもりだった。もしあのタイミングで物語が終わっていたら、「悟空の大猿化って何だったの?」「なんで尻尾があるの?」「そもそも彼って何者?」といった疑問はすべて未解決のまま放置されていたことになる。
だからこそ、その後に始まった「サイヤ人編」は、悟空というキャラクターのルーツを明かす決定的なターニングポイントとなった。サイヤ人という種族の存在、大猿化という能力の由来、尻尾の意味が一気に紐解かれ、当時の『週刊少年ジャンプ』の読者たちは思わず唸ったものである。
悟空の“大猿化エピソード”を改めて振り返ってみよう。
その1:育ての親・孫悟飯を踏み潰す(※原作では描写なし)
幼少期、満月を見て大猿化した悟空は、無意識のまま孫悟飯を踏み潰し、命を奪ってしまったと言われている。本人に記憶はないが、尻尾を持つ自分の危険性を後々知るきっかけとなった。
その2:ピラフ城脱出時
ブルマやヤムチャと共にピラフ一味に捕まり、牢に閉じ込められた悟空。格子越しに満月を見て大猿化し、城を破壊して脱出に成功する。この一件で、仲間たちは初めて彼の変身を目の当たりにした。
その3:第21回天下一武道会(VSジャッキー・チュン)
試合中に満月を見て大猿化するも、ジャッキー・チュン(=亀仙人)がかめはめ波で月を破壊。なんとか暴走を止める。このとき観客のクリリンが「なに あれ?」と驚くリアクションも、地味ながら印象的で笑える名シーンだ。
神様の下で修行する際、悟空は尻尾を永久に取り除かれ、二度と大猿化することはなくなった。
一方で、息子・孫悟飯にも幼少期に尻尾があり、ピッコロとの修行中に満月を見て大猿化。ピッコロを大いに慌てさせ、最終的には悟空同様、尻尾を切られている。
シリーズ後半、サイヤ人たちはスーパーサイヤ人へと進化することで、もはや大猿化という能力に頼る必要はなくなった。しかし、物語初期においてはこの“変化能力”こそが、悟空が異質な存在であることを示す重要な要素だったのだ。
ちなみに、ベジータは自らの気を上空に放ち、人工的に満月を再現するという応用技も披露している。その際に放った名(迷)台詞、「弾けてまざれ!」は、いまだに意味不明ながら、語り継がれる伝説の一言となっている(笑)。
尻尾、大猿化、そしてサイヤ人――。これら一見突飛に見える設定の数々が、後に一つの大きな真実として繋がる展開は、『ドラゴンボール』という作品がただのバトル漫画にとどまらないことを証明している。
もともと終わるはずだった物語に、見事な伏線回収で新たな物語の扉を開いた鳥山明氏。あらためて、そのストーリーテリングの妙に拍手を送りたい。