すべては“思いつき”から始まった?
ピッコロは神様の分身であり、ナメック星人だった
ピッコロ大魔王は、『ドラゴンボール』史上初となる“純粋な悪役”として登場し、当時の読者に強烈な衝撃を与えたキャラクターだ。その圧倒的な存在感は、まさに少年漫画の“悪の象徴”と呼ぶにふさわしかった。
このキャラの誕生は、鳥山明氏が『ドラゴンクエスト』のキャラクターデザインに携わったことがきっかけだったという逸話も残っている。ゲーム的な「ラスボス構造」を取り入れたアイデアが、『ドラゴンボール』に新たな風を吹き込んだのだ。
最強最悪の敵・ピッコロ大魔王との死闘の末、ついに悟空が勝利を収める。物語はここで完結するかと思いきや、そう簡単には終わらせないのが鳥山ワールド。死の間際、ピッコロは自身の分身・マジュニアを産み落とすことで、物語の続編を匂わせる。この巧妙な“延命処置”が、次なる展開へのブリッジとして完璧に機能していたのだ。
そしてその直後に挿入される、悟空がカリン様の助言で“カリン塔よりもさらに上”へ向かうという流れも、絶妙なテンポで物語をつなぐ。ここで重要な伏線がひとつ回収される。これまで悟空の武器として使われていた如意棒が、実はカリン塔と神殿をつなぐための“アイテム”だったという設定だ。これはさりげなくも鮮やかな伏線回収のひとつである。
神殿で悟空を待っていたのは、なんとピッコロに瓜二つの“神様”。ここで明かされるのが、「ピッコロは神様の“悪の心”が分離して生まれた存在」という衝撃の真実だ。これが鳥山明氏の“その場の思いつき”だったとしても、読者の「ピッコロ大魔王って結局何者だったの?」というモヤモヤを一掃する、あまりにも完璧な伏線回収だった。
この設定が一気に世界観を広げ、物語はよりスケールの大きな展開へと突入していく。
そして『サイヤ人編』において、ラディッツらの口から、神様とピッコロが実は“ナメック星人”であることがさらっと明かされる。これにより、それまで読者の間でもはっきりしていなかった“彼らの正体”にピースがはまる。
さらに、サイヤ人たちの「魔法使いのような力を使うナメック星人もいる」という発言によって、神様がドラゴンボールを創造した事実や、ピッコロが悟飯の服や剣を瞬時に生み出す能力も、ようやく理屈として腑に落ちるようになる。これもまた、緻密というよりは“思いつきからの逆算”による後付けの妙技だが、それが見事に世界観と整合性を持ち、伏線回収として機能している点がすごい。
こうして物語は「サイヤ人編」から「ナメック星編」へとつながっていく。ナメック星という新たな舞台、ドラゴンボールの起源、ナメック星人の文化――それまで点在していたピースが、ここで一気に組み上がっていく。読者としては、まさに「オラ、ワクワクすっぞ!」な展開だ。
ピッコロ大魔王の登場に始まり、マジュニア、神様との関係、そしてナメック星人という設定への拡張。それらすべてが一つの太い伏線として回収され、物語が次のステージへと滑らかに移行していく構成は、鳥山明作品ならではの醍醐味である。
たとえ即興の思いつきであったとしても、その場のひらめきが積み重なり、最終的に壮大な宇宙規模の世界観へとつながっていく――これこそが『ドラゴンボール』の真骨頂なのだ。