読者が想像だにしていなかった伏線回収

「人造人間編」の黒幕が、レッドリボン軍の残党であるドクター・ゲロ

『ドラゴンボールZ』
『ドラゴンボールZ』【Getty Images】

 これは賛否が分かれる伏線回収ではあるが、「人造人間編」の人気の高さを考えれば、結局のところ「してやられた!」と唸るしかない展開だろう。まさか、ナメック星で“宇宙の帝王”フリーザを打ち倒した後、次に立ちはだかる敵が、地球製の人造人間だったとは。そして、その黒幕が、かつて少年期の悟空によって壊滅させられたレッドリボン軍の残党――ドクター・ゲロであるという事実。これを事前に予想できた読者がどれだけいただろうか。ちなみにドクター・ゲロは、連載時点では完全な後付けキャラクターである。

 まさかここに来てレッドリボン軍の名が再び登場するとは……と、動揺した読者も少なくなかったはずだ。

 だが物語としては極めて巧みに構築されており、ドクター・ゲロの天才的な頭脳は、同じく天才科学者であるブルマをも驚かせるほど。しかも、そのブルマとベジータの間に生まれた息子・トランクスが、未来から母の手によるタイムマシンで現れ、物語の幕を切って落とすという構成は実に鮮烈だった。

 初登場時のトランクスは、まさに衝撃的だった。登場するや否や、かつてシリーズ最強だったフリーザ、さらにはその父・コルド大王までも一刀両断。読者に強烈なインパクトを残した瞬間だ。このシリーズは、見方によっては“ブルマvs.ドクター・ゲロ”という科学者同士の対立構造を軸にした物語とも言えるだろう、と筆者は考えている。

 また、ドクター・ゲロが後付けのキャラであるとはいえ、彼が人造人間を生み出している以上、「レッドリボン軍編」で登場した人造人間8号(通称・ハッチャン)も彼の手によるものであることは明白だ。ハッチャンの再登場を期待していたファンも多く、その存在が頭をよぎった読者も少なくなかっただろう。

 さらに、伏線回収とまでは言い切れないが、妄想をかき立てられるディテールもある。たとえば、トランクスが初登場時に使っていた剣は、未来の師匠である悟飯が幼少期にピッコロから与えられた剣なのではないか――と、そんな想像をせずにはいられない。

 こうした後付け要素と過去の設定が絶妙に絡み合いながら、新たな興奮を生み出していく構成こそ、『ドラゴンボール』の真骨頂である。

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