観客の心理をついた不条理サスペンス

『隣人は静かに笑う』(1999)

ジェフ・ブリッジス
ジェフ・ブリッジス【Getty Images】

監督:マーク・ペリントン
脚本:アーレン・クルーガー
出演:ジェフ・ブリッジス、ティム・ロビンス、ジョーン・キューザック

【作品内容】

 大学でテロリズムの歴史を教えているマイケル(ジェフ・ブリッジス)は、郊外で幼い息子と静かに暮らしていた。ある日、隣に引っ越してきたラング家の息子・ブレディ(メイソン・ギャンブル)を助けたことをきっかけに、両親のオリヴァー(ティム・ロビンス)とシェリル(ジョーン・キューザック)から感謝され、家族ぐるみの交流が始まる。

 しかし、マイケルは次第にオリヴァーの言動に違和感を覚え、彼が何かを隠しているのではないかと疑い始める。独自に調査を進めるうちに、オリヴァーがある過激派組織と関わっている可能性が浮上するのだった。

【注目ポイント】

 マーク・ペリントン監督によるサスペンススリラー『隣人は静かに笑う』は、善良そうに見える隣人との出会いが、ひとりの男の人生を根底から崩壊させていく衝撃作である。

 主人公マイケル・ファラデー(ジェフ・ブリッジス)は、かつて爆破事件で妻を失い、その傷を抱えながらも息子と再出発を図っていた。隣人のオリヴァー・ラング(ティム・ロビンス)は社交的で親しみやすい人物に見えたが、マイケルの直感は次第にその裏にある“何か”に気付き始める。やがて彼は、オリヴァーが過激派テロ組織に関与していると確信し、証拠を掴もうと奔走する。

 だが、周囲の誰も彼の主張に耳を貸さず、孤立するマイケルは次第に疑念と執着に取り憑かれていく。そして、物語はラスト15分で衝撃の展開を迎える。

 マイケルが通報した“爆弾を積んだトラック”には、なんと自分の息子の荷物が積まれていた。そして、その通報こそが爆破の引き金となったのだ。すべては、オリヴァーが仕組んだ精緻な罠だった。マイケルはテロリストとして処理され、真のテロリストたちは罪を問われることなく、社会の中へと姿を消していく。

「正義」とは何か、「思い込み」とはどこから生まれるのか――その境界を静かに、しかし鋭く突きつけるラストは観る者に重い余韻を残す。信じることの危うさと、正しさの不確かさを突きつける、冷徹で皮肉に満ちた一作である。

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