“戦争を体感”させる心震える傑作

『プライベート・ライアン』(1998)

『プライベート・ライアン』
マット・デイモン(右)、トム・ハンクス(左)(『プライベート・ライアン』撮影現場にて)【Getty Images】

監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:ロバート・ロダット
出演:トム・ハンクス、マット・デイモン、トム・サイズモア、エドワード・バーンズ、バリー・ペッパー、アダム・ゴールドバーグ、ヴィン・ディーゼル、ジョヴァンニ・リビシ、ジェレミー・デイビス

【作品内容】

 1944年。第二次世界大戦のノルマンディ上陸作戦を成功させたアメリカ軍だったが、多くの死傷者を出してしまう。そんな中、ミラー大尉(トム・ハンクス)にライアン二等兵(マット・デイモン)を救出命令が下され、戦場へと向かう。

【注目ポイント】

 1975年の『ジョーズ』で早くもハリウッドの“ヒットメイカー”として名を馳せたスティーヴン・スピルバーグは、その後も『未知との遭遇』(1977)、『E.T.』(1982)など、革新的かつ心を打つ作品を次々と生み出していく。

縁が遠かった賞レースでも『シンドラーのリスト』(1993)でついにアカデミー賞作品賞・監督賞を含む7部門を制覇し、名実ともに映画界の巨匠の地位を確立した。ちなみにこの年には、VFXの革命児とも言える『ジュラシック・パーク』も発表されており、こちらも3部門でオスカーを受賞。まさにスピルバーグの創造力が頂点に達した年と言えるだろう。

 そんなスピルバーグが次に発表したのが、1998年の戦争映画『プライベート・ライアン』である。

 主演はトム・ハンクス、タイトルロールとなるライアン役には当時若手の注目株だったマット・デイモンが抜擢された。また、脇を固めるキャストの中には、のちに人気アクション俳優となるヴィン・ディーゼルの姿もある。

 物語は、第二次世界大戦下、戦地で消息を絶った兵士ジェームズ・ライアンを、アメリカ陸軍の一部隊が母国へと帰還させるべく捜索・保護する任務に挑む姿を描く。実際の出来事をベースにしたこのストーリーは、「たった1人の命のために、多くの兵士が命を賭けることに意味はあるのか?」という深い問いを観客に突きつける。

 本作は興行・批評の両面で高く評価され、スピルバーグにとって2度目となるアカデミー賞監督賞をもたらした。

 特筆すべきは、冒頭約20分にわたって描かれる“ノルマンディー上陸作戦”――とりわけ「オマハ・ビーチの戦い」のシーンだ。手持ちカメラや音響演出を駆使し、極限状態の戦場を疑似体験させるその映像表現は、「観客を実際の戦場に連れていった」とまで称賛され、以降の戦争映画に多大な影響を与えた。

 この圧倒的な臨場感を生み出したのが、『シンドラーのリスト』からスピルバーグとタッグを組む撮影監督ヤヌス・カミンスキーだ。彼は本作でアカデミー賞撮影賞を受賞し、その後もスピルバーグ作品には欠かせないパートナーとして活躍を続けている。

 なお、同時期には他にも、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)、『マトリックス』(1999)、『パルプ・フィクション』(1994)、『セブン』(1996)など、映画史に残る傑作が数多く生まれており、ジャンルの多様化と技術革新が映画界を席巻した時代でもあった。

『プライベート・ライアン』は、そんな時代の中で、“戦争”というテーマに真っ向から向き合い、映像と物語の力で観る者の魂を揺さぶった傑作となった。さらには、スピルバーグにとって、エンターテインメントの巨匠から“語り部”としての深みを得た重要な作品でもあるのだ。

【著者プロフィール:村松健太郎】

脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。

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【了】

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