俳優一家のDNAに頼らない、リアルでまっすぐな「演技の力」

安藤サクラ&柄本佑

安藤サクラ&柄本佑
安藤サクラ&柄本佑【Getty Images】

【注目ポイント】

 芸能界には、いわゆる“俳優一家”と呼ばれる名門がいくつか存在する。その中でもひときわ異彩を放っているのが、安藤サクラと柄本佑の夫妻だ。ともに名のある俳優を親に持ちながらも、“親の七光り”とは無縁の存在感と演技力で、自らの道を切り拓いてきた。いまや日本映画界に欠かせない、俳優カップルの象徴的な存在である。

 安藤サクラは、映画監督・俳優の奥田瑛二とエッセイストの安藤和津の次女として生まれた。女優としてのキャリアは、2007年、奥田瑛二が監督を務めた映画『風の外側』で、主演女優の急な降板によって代役に抜擢されたことから始まる。

 以降も、『かぞくのくに』(2012)、『百円の恋』(2014)、『万引き家族』(2018)、そして『怪物』(2023)と、話題作への出演が相次ぎ、いずれの作品でも深い感情を体現する圧巻の演技を披露してきた。2022年公開の『ある男』では、その存在感が高く評価され、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。作品ごとに異なる顔を見せながらも、常に心を揺さぶる力を持つ俳優であることを証明している。

 一方の柄本佑も、俳優・柄本明と女優・角替和枝という名優を両親に持つ、正真正銘の“俳優一家”に育った。2003年に映画『美しい夏キリシマ』で主演デビューを果たし、その瑞々しい存在感と繊細な感情表現で高い評価を受ける。その後も『きみの鳥はうたえる』(2018)、『火口のふたり』(2019)、『痛くない死に方』(2021)などで、静かに、しかし力強く人間の内面を描き出す演技を見せ続けている。

 2人に共通するのは、いかなる役であっても“演技している”ことを感じさせない、自然体の表現力だ。作為を排し、人物の内面そのものを生きるような演技は、まるでそこに本当に“その人”が存在しているかのようなリアリティを与える。名のある家系に生まれたことをひけらかすことなく、それを越えて、個人として俳優という仕事に真摯に向き合ってきた姿勢は、多くの人々の共感と尊敬を集めている。

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