記憶の奥にある不安やさみしさを繊細に表現
研ナオコ 『うぉっしゅ』(2025)
【作品内容】
ソープ嬢の加那は、認知症の祖母・紀江の介護を一週間頼まれ、仕事を秘密にしながら二重生活を始める。名前すら覚えない祖母との“初対面”を繰り返す日々の中で、加那は自分の本音を語れるようになり、祖母の知られざる人生と孤独に触れていく。
【注目ポイント】
歌手、タレント、女優と幅広く活躍している研ナオコ。パワフルな歌声と、バラエティ番組で見せる飾らないイメージが強いが、映画『うぉっしゅ』(2025)では、主人公・加那(中尾有伽)の祖母で認知症の磯貝紀江を演じた姿は圧巻だった。
ソープ嬢の加那は、家族に仕事を隠したまま、母から認知症の祖母・紀江の介護を一週間頼まれ、昼は介護、夜はソープ勤務という二重生活を送ることに。毎朝「初めまして、磯貝紀江と申します。お名前は?」という祖母の自己紹介から一日が始まり、加那は食事から排泄まで、懸命に世話を続けていく。
家族の苦悩を描く本作で、ひときわ目を引くのが、研ナオコ演じる祖母・紀江の存在だ。機嫌が良い日もあれば、不機嫌な日もある。突然何かを思い出したように「行かなきゃ」と焦り出し、加那を困らせることも。しかしその言動の奥には、彼女が歩んできた人生の重みがにじむ。研ナオコの演技は、単なる症状の再現にとどまらず、認知症によって失われていく記憶や、心の奥にある不安や寂しさまでを繊細に表現している。
紀江が過去にサックス奏者であったという設定も、認知症の方の今だけでなく過去にも目を向けることの重要性を教えてくれる。認知症によって失われたように見える記憶の奥底にも、その人らしさや生きてきた証は確かに存在しているのだ。
加那は祖母の過去に触れることで、自分自身の人生にも向き合い始める。重くなりがちなテーマを扱いながらも、物語は軽やかさを失わずに進み、その核心にあるメッセージはまっすぐに胸に響く秀作であった。
(文・阿部早苗)
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【了】