記憶をなくした王女が辿る運命―実在の伝説が胸を打つラブロマンス

『アナスタシア』(1997)

メグ・ライアン
メグ・ライアン【Getty Images】

監督:ドン・ブルース、ゲイリー・ゴールドマン
脚本:スーザン・ゴーシャー、ブルース・グレアム、ボブ・ツディカー、ノニ・ホワイト
出演:メグ・ライアン、ジョン・キューザック

【作品内容】

 ロマノフ王朝の皇女であるアナスタシアは、8歳の時に参加したパーティーで大好きな祖母からオルゴールの宝石箱とそのカギのペンダントを贈られる。そのペンダントには、「いつかパリで一緒に暮らそう」というメッセージが刻まれていたのだった。

 しかし、そのパーティーには招かれざる客であるラスプーチンが現れる。彼は呪いを使って、ロマノフ王朝を壊滅させようとしていた。祖母とアナスタシアは、召使いの少年の導きで何とか城から抜け出すも、逃げる途中で汽車から落ちてしまい、行方不明になってしまう。

 それから10年後、アナスタシアの行方は未だにわからず、祖母である皇太后は彼女をまだ探し続けていた。アナスタシアは記憶をなくし、孤児院で生活していたのだが、自分のルーツを見つけるためにパリを目指す。

【注目ポイント】

 海外のアニメーション映画といえば、多くの人がまず思い浮かべるのはディズニー作品だろう。特に1990年代は、『アラジン』や『ライオン・キング』といった名作が次々と生まれ、黄金期とも呼ばれる時代である。

 そんな中、1997年に公開された『アナスタシア』は、20世紀フォックスが初めて手がけた長編アニメーション作品だった。その美しい作画や幻想的な世界観から、ディズニー映画と勘違いする人も多いが、それもそのはず。本作の監督であるドン・ブルースは、かつてディズニーで作画を担当していた経験を持つ実力派である。

 本作の大きな魅力のひとつが、アカデミー賞主題歌賞にもノミネートされた音楽だ。中でも「Journey to the Past」は、明るく前向きなメロディに乗せて、「失われた過去を探す」という切ないテーマを歌い上げる名曲。記憶をなくしたアナスタシアが、自身のルーツを求めて旅をするストーリーと深くリンクしており、華やかさの中に滲む哀愁が、観る者の心にそっと触れてくる。

 また、この作品が持つ独特の切なさには理由がある。ひとつは、1956年公開の映画『追想(Anastasia)』をもとにしたリメイクであるという点だ。『追想』は戯曲にインスパイアされて制作されており、そこから派生した音楽やドラマ性が、本作にも色濃く受け継がれている。そしてもうひとつは、この物語のベースとなった“アナスタシア”が実在の人物をモデルにしていること。史実とは異なる展開を辿るものの、映画を観終えた後に彼女の本当の人生や背景を知りたくなるような余韻を残す。

 現在もなお、『アナスタシア』は多くの人々に愛されている。宝塚歌劇団による舞台化や、ブロードウェイでのミュージカル公演など、時代を超えてその物語と音楽が語り継がれていることが、その証だ。

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