はみ出し者の少年とドラゴンの友情が、世界を変える

『ヒックとドラゴン』(2010)

ヒックとドラゴン
ヒックとドラゴン【Getty Images】

監督:ディーン・デュボア、クリス・サンダース
脚本:ディーン・デュボア、クリス・サンダース、ウィル・デイヴィス
原作:クレシッダ・コーウェル
出演者:ジェラルド・バトラー、ジェイ・バルチェル

【作品内容】

 はるか遠く、北の海にあるバーク島で暮らすバイキングの一族がいた。彼らは、長い間ドラゴンと戦い続けていた。ヒックは、ひ弱な体をした鍛冶屋のため、バイキングにあこがれながらも、うまくいかない日々を過ごしている。彼の父であり、村のリーダーでもあるストイックは、ヒックの対応に悩んでいた。

 そんなある日、村はドラゴンたちの襲撃にあってしまう。ヒックは自身が発明した仕掛けで、最も危険なドラゴンと言われているナイトフューリーを捕まえることに成功するが、ケガして飛ぶことができないナイトフューリーに感情移入してしまう。

【注目ポイント】

 ドリームワークスが贈る3Dアニメーション映画『ヒックとドラゴン』は、全世界で愛される同名の児童文学を原作に、『リロ&スティッチ』で知られるクリス・サンダースとディーン・デュボアが共同監督を務めた。美しいビジュアルと緻密なストーリーテリングが高く評価され、第83回アカデミー賞では長編アニメ映画賞にノミネート。惜しくも『トイ・ストーリー3』と同年公開だったため受賞は逃したものの、観る者の心に深く刻まれる作品であることに変わりはない。

 物語の主人公ヒックは、ドラゴン退治を宿命とするバイキングの村で“のけ者”扱いされている少年。一方、彼が偶然出会い傷を負った伝説のドラゴン、ナイトフューリーの“トゥース”もまた、仲間からはぐれた存在だった。孤独を抱えた2人(1人と1匹)が出会い、少しずつ信頼を築き、心を通わせていく――そんな“王道”の構図だからこそ、物語の展開はより強く胸に響く。

 特筆すべきは、感動的なシーンと見事にシンクロする音楽。ジョン・パウエルによる壮大で繊細なスコアは、登場人物たちの心情や世界の美しさを一層引き立て、物語に深い余韻を残す。

 さらに、村のリーダーでありヒックの父でもあるストイックとの親子の確執も丁寧に描かれている。妻を失い、男手一つで息子を育ててきた父の不器用な愛情と、村を守る責任を背負うリーダーとしての葛藤。その姿は、親世代の観客にも強い共感を呼ぶだろう。

『ヒックとドラゴン』はその後、2作の続編も制作され、シリーズを通してヒックとトゥースの絆、そして“家族”の物語がより深く描かれていく。単なる冒険や成長物語にとどまらず、人生の喜びや喪失、そして選択の重みまでも描き出し、涙を誘う場面も数多く存在する。

 現在、本作の実写映画版が制作中との報もあり、再びあの感動が新たな形で蘇る日が待ち遠しい。

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