声なき友情が描く、やさしくて切ない時間の物語
『ロボット・ドリームズ』(2023)
監督:パブロ・ベルヘル
脚本:パブロ・ベルヘル
原作:サラ・バロン
【作品内容】
ドッグは一人で大都市ニューヨークで暮らしていた。とある夜、ドッグは通販番組に心を動かされて、電話をかけてみる。
後日、届いた荷物を目の前に、期待に胸を膨らませて部品をくみ上げていくと、ロボットが完成した。ロボットの友達ができたドッグは、彼と一緒にニューヨーク中を出かける。出かけていくうちに、距離が縮まる二人。
夏の晴れた日に、ビーチで海水浴をした帰りにロボットが錆びて、動けなくなってしまう。ビーチもこのまま次の夏まで閉鎖されてしまうので、二人はそれまで離れて過ごすことになる。無事に二人は再会することができるのか。
【注目ポイント】
第96回アカデミー賞で長編アニメーション賞にノミネートされた本作は、セリフもナレーションも存在しないという、異色のアニメーション映画である。原作はグラフィックノベル。1980年代のニューヨークを舞台に、擬人化された動物たちが織りなす無言の物語が展開される。登場キャラクターに名前はなく、複雑なストーリー構造も排されており、視覚と音楽だけで語られる映像詩のような作品だ。
当初は単館上映のみでスタートしたが、口コミによる高評価が広まり、次第に公開規模が拡大。2024年のベスト映画の一つとして、多くの映画ファンや評論家からの支持を集めている。
セリフがないからこそ、音楽や環境音が物語を支える大きな要素となっている。ドッグと呼ばれる主人公の孤独な日常や、淡々とした暮らしの中にある切なさが、音を通して鮮明に伝わってくるのだ。
この作品を観て強く感じたのは、『ドラえもん』や『ベイマックス』といった“ロボットと友情”を描いた作品が、国を超えて人々の心に届くという普遍性だ。しかし、本作はそれらとは一線を画している。なぜなら、ドッグとロボットの関係は“対等な友達”ではない。ロボットはドッグが購入した“ペット”であり、ドッグはロボットの“飼い主”なのだ。この微妙な主従関係のもとで、二人の間に育まれていく絆と、時間の経過とともに生まれる距離感が、観る者の胸を締めつける。
また、ドッグの描写は驚くほどリアルで、人間味にあふれている。些細なしぐさや習慣、孤独な日常の描写には「現実にもありそう」と感じる場面が多く、自然と感情移入してしまう。セリフがないからこそ、表情や間、仕草が雄弁に語りかけてくる。
監督のパブロ・ベルヘルは、原作に出会った際、号泣した経験があったという。その感動を映像として再現するために、1年をかけて映画用の脚本を練り上げた。その真摯な姿勢と情熱は、映像の隅々から確かに感じ取れる。
観終えた後、「この映画の感動を誰かに伝えたい」と強く思わせる本作。言葉を使わず、ここまで豊かな感情を表現できるアニメーションは希有だ。映画の新しい可能性を感じさせてくれる、珠玉の一作である。
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【了】