命懸けの撮影が生んだ奇跡

『南極物語』(1983)

高倉健
高倉健【Getty Images】

監督:蔵原惟繕
キャスト:高倉健、渡瀬恒彦、夏目雅子

【作品内容】
 1958年2月、悪天候によって南極昭和基地の越冬隊の活動が中止に。犬係の潮田(高倉健)と越智(渡瀬恒彦)の願いも届かず、15匹のカラフト犬が過酷な極寒の地に置き去りにされてしまう…。

【注目ポイント】
 1958年、南極観測隊が悪天候と燃料不足のため、15頭の樺太犬を南極に置き去りにせざるを得なかった──この実話を基に、高倉健主演で描かれた映画『南極物語』(1983)。極寒の自然を舞台にしたこの作品は、俳優・スタッフの並々ならぬ覚悟と献身により完成した、日本映画史に残る名作である。

本作のロケは過酷を極めた。通常であれば大道具スタッフが担当するセット作りも、限られた人数での撮影だったため、美術スタッフを同行させる余裕がなかった。その結果、撮影助手や照明助手、さらには俳優までもが一丸となり、氷点下40度の中で力を合わせてセットを構築。ブリザードが吹き荒れる中での作業は過酷を極め、凍傷で頬の皮が剥けるスタッフが出るほどだった。

主演の高倉健にも、命の危険が及んだ瞬間がある。撮影を終えて一足先にロッジへ戻る途中、激しいブリザードに遭い道に迷ったのだ。磁極に近いため方位磁石は役に立たず、救助隊が発見したのは出発から2時間後。車内はまるで冷蔵庫のように凍りつき、まさに生死の境をさまよう体験だった。

また別のロケでは、監督の蔵原惟繕、高倉健、カメラマン2名の計4人がブリザードに見舞われ、設営していたテントが吹き飛ばされる事態に。やむなく寝袋の中で互いに声を掛け合いながら、約4時間もの間、吹雪を耐えしのいだという。

自然の厳しさに真正面から向き合い、動物との絆を真正面から描いた『南極物語』。その陰には、命を懸けた俳優・スタッフの挑戦と、動物たちへの深い敬意が込められていた。本作が今なお人々の心を打ち続けている理由は、その“真実の重み”にほかならない。

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