名作が意外と多い…? 実の親子が共演している日本映画5選。リアルな雰囲気が素晴らしい…選りすぐりの作品をセレクト
血縁で結ばれた「実の親子」が同じスクリーンに立つ――。それは俳優としての積み重ねや覚悟が交差する、ある種の“奇跡”のような瞬間でもある。本稿では、邦画の中でも印象的な実の親子共演映画5選を厳選紹介。演技を超えてにじみ出る絆、役を通して交わされる心の会話に、胸を打たれること間違いなし。(文・阿部早苗)
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タイトルの“せかい”に込められた親子の継承
佐藤浩市×寛一郎『せかいのおきく』(2023)
監督:阪本順治
脚本:阪本順治
出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司
【作品内容】
江戸末期、貧乏長屋で暮らすおきく(黒木華)は、紙屑拾いの中次(寛一郎)と下肥買いの矢亮(池松壮亮)と出会い、心を通わせていく。厳しい時代を懸命に生きる3人だったが、おきくはある事件で声を失ってしまう。
【注目ポイント】
2023年4月に公開された『せかいのおきく』は、阪本順治監督が手がけたオリジナル脚本によるモノクロームの時代劇である。江戸末期という激動の時代に、社会の最下層で懸命に生きる若者たちと、声を失った女性の心の交流を通して、人間の尊厳と希望を描いた作品だ。
本作で注目すべきは、佐藤浩市とその息子・寛一郎の二度目の共演である。佐藤が演じるのは、おきくの父であり、かつては武士だった源兵衛。今は身をやつし、長屋で娘と慎ましく暮らしている。一方、寛一郎が演じる中次は、矢亮と共に下肥買いをして働く若者。読み書きもできず、社会の中で自分の居場所を手探りで見つけようとしている。
そんな父子ふたりの印象的なシーンがある。長屋の汲み取り仕事の担当となった中次が、源兵衛と出くわすシーンだ。
この時、源兵衛は中次に「せかいという言葉を知っているか?」と尋ねる。無学な中次にはその言葉の意味が分からない。すると源兵衛は、空を仰ぎながらこう語る。「この空の果て、どこだかわかるかい。果てなんかないんだよ。それがせかいだ」「惚れた女ができたら言ってやんな。俺はせかいで一番好きだってな」
この言葉は、源兵衛が中次に投げかけた人生の指南であると同時に、“せかい”というタイトルの意味を内包するシーンでもある特別なものだ。佐藤浩市と寛一郎の共演は、血のつながりだけでは語れない俳優としての“継承”を感じさせる。
ちなみに、初共演作は映画『一度も撃ってません』(2020)。佐藤浩市と寛一郎は主人公の編集担当と後任編集者として共演している。