確執を越えて向き合う、唯一無二の父子共演

三國連太郎×佐藤浩市『美味しんぼ』(1996)

三國連太郎&佐藤浩市
三國連太郎&佐藤浩市【Getty Images】

監督:森﨑東
脚本:丸内敏治、梶浦政男
出演:佐藤浩市、羽田美智子、三國連太郎

【作品内容】

 創立100周年を迎えた東西新聞社は、記念事業として究極のメニューを選定する企画を立ち上げ、監修に美食家・海原雄山(三國連太郎)を迎えようとする。しかし、担当に山岡士郎(佐藤浩市)が選ばれたと知った雄山は、監修を拒否する。

【注目ポイント】

 1996年公開の映画『美味しんぼ』は、実の父子である三國連太郎と佐藤浩市が本格的に共演した唯一の作品として注目を集めた。劇中で演じたのは、長年確執を抱える父・海原雄山と息子・山岡士郎という関係。まさに実生活での距離感を色濃く反映したような配役だった。

 海原雄山と息子・山岡士郎が“究極のメニュー”を通して、わずかながらも理解し合おうとする姿が描かれる。そして終盤では煮豆をきっかけに、長年の確執を抱えてきた父子の距離がふと近づく場面がある。その瞬間はフィクションでありながら、まるで現実の三國連太郎と佐藤浩市の親子関係が重なったかのように感じられ胸を深く打った。

 この親子共演が実現した背景には、実は三國連太郎の強い意志があったとされている。映画化の企画が進む中、海原雄山役には当初から三國が想定されていたが、彼は山岡士郎役に息子の佐藤浩市を指名したと言われている。

 制作発表の場では、互いを「三國さん」「佐藤くん」とあえて距離を取った呼び方で呼び合い、私情を一切挟まないプロフェッショナルな共演を貫いた。

 三國連太郎と佐藤浩市が共演した作品は他にもあるが、同じ作品で正面から芝居でぶつかり合ったのは、この『美味しんぼ』だけである。互いに一流の俳優として活躍してきた二人が、血のつながりを超えてプロとして対峙した貴重な記録となっている。

【著者プロフィール:阿部早苗】

仙台在住のライター。2020年にライターデビュー。これまで東日本大震災での企業活動をまとめた冊子「こころノート」第2弾、プレママ向けフリーペーパーを執筆した他、エンタメニュース、福祉関連記事、GYAOトレンドニュース、地元グルメライターなどWEB媒体を中心に執筆。映画なしでは生きられないほど映画をこよなく愛する。

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【了】

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