北野武が放つ、暴力と静けさの詩情
『ソナチネ』(1993)
監督:北野武
脚本:北野武
出演者:ビートたけし、国舞亜矢、大杉漣、渡辺哲、寺島進、勝村政信、矢島健一、逗子とんぼ、南方英二
【作品内容】
北嶋組傘下の村川組組長・村川(ビートたけし)は助っ人を命じられ、手下たちを連れて沖縄へ向かう。しかし彼らの加勢をきっかけに事態はますます激化し、抗争は激しさを増していく。
やがて仲間たちは次々と命を落とし命を落とし、追い詰められていくなか、海辺の廃屋に身を隠した村川たちは、少年時代に戻ったかのように無邪気に遊んで過ごすが…。
【注目ポイント】
1980年代後半、日本映画界に新たな潮流をもたらす現象として「異業種監督ブーム」が巻き起こった。従来、映画監督といえば撮影所で助監督としてキャリアを積み、段階的に昇進していくのが常識だったが、この時期から俳優、作家、舞台演出家、ミュージックビデオやCMディレクター、さらには歌手など、異なる分野で表現活動を行ってきた人物たちが次々と長編映画で監督デビューを果たすようになった。その先駆けとなったのが、本作で監督を務めたビートたけしである。
ビートたけしは1980年代に俳優業を本格化させ、1983年の大島渚監督作『戦場のメリークリスマス』や崔洋一監督作『十階のモスキート』などで印象的な演技を見せ、俳優としての地位を確立。1989年には『その男、凶暴につき』で主演を務めることが決まり、当初は俳優としてのみの参加だったが、監督予定だった深作欣二が降板したことを受け、自ら北野武名義で監督を引き継ぐことになった。当時の北野武は映画界にとって“異端児”であり、彼の監督業は半ば異色の存在として受け止められていた。
『ソナチネ』は北野武監督の第4作にあたり、彼の作家性を決定づけた重要な作品である。ドライで唐突な暴力描写、そして“北野ブルー”と称される独特の色彩感覚が本作で明確に打ち出され、以後の北野映画に通底するスタイルが確立された。物語は、たけし演じる暴力団員・村川が抗争の助っ人として沖縄に赴くも、当初聞かされていた内容とはかけ離れた状況に直面し、暴力の渦中で真相に迫っていくというもの。後に北野組の常連となる寺島進や大杉漣も、この作品で初参加を果たしている。
本作は特にヨーロッパ圏で高い評価を受け、北野武の名が国際的に知られるきっかけとなった。その評価はさらに高まり、4年後の1997年には『HANA-BI』でヴェネチア国際映画祭の最高賞である金獅子賞を受賞。“世界のキタノ”としてその名を映画史に刻むことになる、まさに転機となった一本である。