岩井俊二が贈る、届くはずのない手紙が繋ぐ心
『Love Letter』(1995)
監督:岩井俊二
脚本:岩井俊二
出演者:中山美穂、豊川悦司
【作品内容】
神戸に住む渡辺博子(中山美穂)は、婚約者・藤井樹(豊川悦司)を事故で亡くしていた。ある日、ふとしたいたずら心から、彼がかつて小樽で暮らしていたという住所宛てに手紙を出してみる。すでにその家は取り壊されているはずだった…しかし、数日後、手紙に返事が届く。差出人の名は藤井樹。
【注目ポイント】
岩井俊二という才能の出現は、1990年代の日本映画界に一陣の風を巻き起こした。1993年、フジテレビ系のオムニバステレビドラマ『if もしも』内の一編として放送された「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」で、その名は一躍注目される。詩情あふれる映像美と繊細で私的な語り口は高い評価を受け、テレビドラマとしては異例の、日本映画監督協会新人賞を受賞。新たな映像表現の旗手として一躍脚光を浴びた。
そして1995年、満を持して発表された長編映画デビュー作が『Love Letter』である。主人公・博子と、その亡き婚約者の初恋の相手・樹の二役を中山美穂が演じ、アイドル路線から女優として新たな道を歩み始めた彼女の代表作となった。共演には豊川悦司、加賀まりこ、酒井美紀、柏原崇、鈴木蘭々といった実力派が名を連ね、物語に奥行きを与えている。
この作品は、1999年に韓国で公開されると空前の大ヒットを記録。映画の舞台である北海道・小樽は“聖地”と化し、韓国からの観光客が殺到するなど、国境を超えた社会現象となった。
そして迎えた2025年、公開30周年を記念し、4Kデジタルリマスター版が劇場上映された。しかし、その喜びに水を差すかのように、2024年12月には主演の中山美穂が急逝。多くのファンがその早すぎる別れに沈痛な思いを抱くなか、舞台挨拶に登壇した豊川悦司はこう語った。
「美穂ちゃんがいなくて、本当に残念な気持ちです。僕の中でこの映画は、美穂ちゃんの映画なので……」
『Love Letter』は、時を超えて今もなお心を打つ作品であり、その輝きは中山美穂という女優の存在とともに、永遠に刻まれることとなった。