平凡な男の心を揺らす、秘密のレッスン

『Shall we ダンス?』(1996)

役所広司
役所広司【Getty Images】

監督:周防正行
脚本:周防正行
出演者:役所広司、草刈民代、原日出子、竹中直人、田口浩正、徳井優、渡辺えり子、草村礼子、柄本明

【作品内容】

 まじめな経理課長の杉山(役所広司)は小さいながらも郊外に家を持ち何も不満もない生活を送っていたが、どこか満ち足りていない気持ちを抱えていた。そんな中でとあるダンス教室で舞(草刈民代)という講師と出会い、家族には秘密で社交ダンス教室に通い始める。そこで杉山は様々な人々と出会うことになる。

【注目ポイント】

 ピンク映画の現場で助監督としてキャリアを積み、1984年に長編監督デビューを果たした周防正行。その後、一般映画に活動の場を移し、1989年の『ファンシイダンス』で注目を集めると、1992年には『シコふんじゃった。』を監督。柔道部を舞台にした異色の青春コメディは高い評価を受け、興行的にも成功を収めた。

 そして1996年、周防監督が満を持して世に送り出したのが、『Shall we ダンス?』である。主演に役所広司を迎え、共演には竹中直人、渡辺えり子、柄本明、原日出子といった実力派が名を連ねた。ヒロインの舞を演じたのは、1980年代から第一線で活躍していたバレエダンサー・草刈民代。これが映画初出演にして主演という挑戦だったが、その凛とした佇まいと繊細な演技で、見事に観客の心をつかんだ。彼女はのちに周防監督と結婚することになる。

 物語は、地味で平凡なサラリーマンが、ひょんなことから社交ダンス教室の扉を叩き、そこで新たな自分を見つけていくというもの。軽やかで温かなユーモアに包まれた本作は、公開と同時に大ヒットを記録。日本アカデミー賞では、全部門(13部門+優秀新人賞)を制覇するという前代未聞の快挙を成し遂げた。

 また、当時「時代遅れの趣味」とされていた社交ダンスに再び脚光を当て、日本中に“社交ダンスブーム”を巻き起こす社会現象にもなった。

 国内にとどまらず、世界各国でも公開され、とりわけアメリカでは実写邦画として当時の最高ヒット記録を打ち立てる。その成功に後押しされ、2004年にはリチャード・ギアとジェニファー・ロペス主演で、ハリウッド版『Shall We Dance?』が制作されることとなる。

 “踊ることで人生が少しだけ変わる”というテーマを、誰もが共感できる温度で描いたこの作品は、まさに日本映画のひとつの到達点であり、周防正行の名を世界に知らしめることとなった。

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