28年ぶりにパルムドールを受賞したイラン映画

『シンプル・アクシデント』
(監督:ジャファル・パナヒ)

 ©JafarPanahiProductionsLesFilmsPelleas
  ©JafarPanahiProductionsLesFilmsPelleas

 祖国イランでは反体制派として2度の投獄を経験。政府から映画制作を禁止されてきたジャファル・パナヒ監督。海外渡航が解かれ、カンヌ入りできただけでも大きなニュースに。しかも、作品そのものが素晴らしく現地ジャーナリストに高評価で、そのまま最高賞パルムドールの受賞となった。

 車に飛び込んだ犬を轢くという「単純な事故」からドラマは動き出す。男らの偶然の出会いから、かつて政治的理由で投獄された者と拷問者らしき者が繋がり、復讐劇に発展。しかし、いざ殺そうとするも疑いが生じ、元囚人仲間に意見を尋ね回る。復讐するべきかしないべきか、それが問題だ。

 当局の目をかわした秘密裏の撮影。映画制作の制限を逆手に取り、独特な状況を緊迫感ある作品に仕立てるのは、もはや巨匠パナヒの名人芸。

 背景にシリアスな独裁政権の影があれど、時に愚かで戸惑う人々に人間味を感じ、悲喜劇にもなっている。パナヒ作品の中ではエンタメ性もあり、観客の間口が広くなった。

 カンヌでは『桜桃の味』以来、28年ぶりのイラン映画の最高賞。とはいえ『桜桃の味』は『うなぎ』と同時受賞であり、イラン映画単独の最高賞はこれで初めて。その偉業に値する作品である。

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