悪夢のような体験型ディストピア映画
『シラット』
(監督:オリバー・ラクセ)
カンヌ映画祭コンペティション部門には、時に初参加の監督による過激な野心作が番狂せを起こす様が爽快。近年ならジュリア・デュクルノーの『TITANE/チタン』、コラリー・ファルジャ『サブスタンス』がそれに当たる。そして今年は、フランス系スペイン人オリバー・ラクセ監督の『シラット』が殴り込みをかけた。
絶望的なまでに広大なモロッコの砂漠。幼い息子を連れた父親が、レイブパーティ中に行方不明となった娘を探し彷徨う。手がかりもなく、途方に暮れる親子は流れ者たちの一行に加わり旅は続く。劇中では、大型のバンが『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)のように爆走し、『恐怖の報酬』(1953)のように危険と格闘。煉獄で運命を試される父親を、名優セルジ・ロペスが感動的に演じ切る。
今年からカンヌのメイン会場リュミエール劇場は、没入型のドルビーアトモスの音響システムを搭載。本作では冒頭からテクノ音が響き渡り、音の効果を遺憾無く発揮。個人的には身も蓋もない展開に唖然とさせられたが、地の果てで起きる悪夢のような体験型ディストピア映画の衝撃は忘れ難い。現地では熱狂的に迎えられ、パルムドール候補の呼び声が高かったが、審査員賞に甘んじた。