軽やかさの中に潜む苦味、異色の絵画泥棒劇

『マスターマインド』
(監督:ケリー・ライカート)

©2025 Mastermind Movie Inc All Rights Reserved
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「犯罪」を背景に据えた重めの作品が並ぶ今年のコンペティション部門。だが、本作は軽やかに語られる異色の強盗映画だ。ベトナム戦争が続く1970年代、米マサチューセッツ州で、絵画泥棒に手を染める元大工の男性が主人公。

 妻と二人の子供と暮らす失業中の男は、警備が緩めの地元の美術館で抽象画の強盗を計画する。両親は裕福であり、それほど生活に窮している様子でもない。奇妙で行き当たりばったりの強盗は、すぐに暗礁に乗り上げるだろう。

 流れるようなジャズの調べとともに、前半は粋で軽やかなコメディ調。しかし、問題は絵画を手に入れてから。未熟で利己的な主人公は、それなりの代償を払うことに。

 監督は“米インディペンデント映画の女王”と称されるケリー・ライカート。これまでと同様、肩肘張らずにジャンル映画を解体して見せる。主演のジョシュ・オコナーは今最も注目される若手スター。今回のコンペ部門では、オリヴァー・ハーマナス監督のドラマティックなLGBTドラマ『ヒストリー・オブ・サウンド』にも抜擢。本作では、何かを成し遂げたくても不発で終わる平凡なアンチ・ヒーロー役が、オフビートなライカート節の中でしっくりとはまっていた。

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