生命は、こんなにも美しく強い
『ダンデライオンズ・オデッセイ』
(監督:瀬戸桃子)
昨年、カンヌ映画祭「ある視点」部門では、ラトビアから生まれた猫が主役のアニメ『Flow』が彗星の如く登場。洪水で流される動物たちを擬人化し過ぎずリアルに描き、米アカデミー賞長編アニメ賞にも選ばれた。
その『Flow』の衝撃を思い出させるのが、瀬戸桃子監督の『ダンデライオンズ・オデッセイ』。カンヌ映画祭の独立部門「批評家週間」でクロージング上映され、国際映画批評家連盟賞に輝いた。タンポポの種たちが冒険する姿は、『Flow』の植物版とも呼びたくなる。生きとし生けるものたちのありのままが、すでに美しく驚きで溢れている。世界に目を開かされ、生命の讃歌が聞こえてくる斬新かつ詩的なエコ映画である。
核爆発で吹き飛ばされたタンポポの種は、別の惑星にて旅を続ける。四つの種はそれぞれ微妙に個性があり、意志や感情も感じさせる。ふわりと飛ばされる旅の過程で、様々な自然現象が彼らの前に立ちはだかる。そびえ立つようなカエルやキノコらの登場も圧巻だ。
アニメーションと紹介されるが、大半は本物の自然を撮影した映像で構成されており、実写作品に近い。驚きの映像はフランス、アイスランド、日本など世界各地で撮影されている。
【著者:林瑞絵プロフィール】
在仏映画ジャーナリスト。北海道札幌市出身。映画会社で宣伝担当を経て渡仏。パリを拠点に欧州の文化・社会について取材、執筆。海外映画祭取材、映画人インタビュー、映画パンフ執筆など。現在は朝日新聞、日経新聞の映画評メンバー。著書に仏映画製作事情を追った『フランス映画どこへ行く』(キネマ旬報映画本大賞7位)、日仏子育て比較エッセイ『パリの子育て・親育て』(ともに花伝社)がある。@mizueparis
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