実話が衝撃的…史実を基にした日本の戦争映画、最高傑作は? 邦画の名作5選。観る者の心を打つ作品をセレクト
2025年は、終戦してからちょうど80年という節目の年にあたる。戦争は、無惨にも多くの命と多くのものを奪った。それは決して忘れてはいけないことであり、二度と繰り返してはいけない。そこで今回は、実話を基にした日本の戦争映画の名作を5本セレクト。内容とともに、作品が強く訴えるポイントを紹介する。(文・阿部早苗)
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いつか帰る日を信じて遺書を書き続けた男の物語
『ラーゲリより愛を込めて』(2022)
監督:瀬々敬久
脚本:林民夫
出演者:二宮和也、北川景子、松坂桃李、中島健人、寺尾聰、桐谷健太、安田顕
【作品内容】
1945年、第二次世界大戦後のシベリア強制収容所。零下40度の極寒と過酷な労働に苦しむ日本人捕虜たちの中で、山本幡男(二宮和也)は家族との再会を信じ、仲間たちを励まし続けた。その揺るがぬ信念と行動は、絶望の中にあった人々に希望をもたらしていく。
【注目ポイント】
2022年に公開された映画『ラーゲリより愛を込めて』は、戦後日本の知られざる歴史である「シベリア抑留」に焦点を当てた作品である。主演は二宮和也、監督は瀬々敬久。原作は辺見じゅんによるノンフィクション『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』に基づいている。
舞台は第二次世界大戦終結後、日本の兵士たちが連行されたソ連の強制収容所(ラーゲリ)。その過酷な環境の中で描かれるのは、山本幡男というひとりの男の生き様である。飢えや重労働、そして仲間の死が日常となるなか、山本は決して人間としての尊厳を手放さず、帰国できる日を信じて妻と子どもたちに宛てた遺書を書き続ける。
主人公・山本幡男には実在のモデルが存在する。終戦後にソ連に抑留され、スヴェルドルフスクの収容所で病に倒れながらも、仲間たちを精神的に支え続けた人物である。自らの死期を悟った彼は、家族への遺言を仲間に託すため、その内容を正確に伝えるべく、何度も繰り返し読み聞かせ、暗記させたという。帰国を果たした仲間たちは日本で山本の家族を訪ね、一言一句違えることなくその遺言を伝えた。この信じがたい実話は、映画の核心として力強く描かれている。
映画はこの実話を基軸としながらも、いくつかの創作を交えて物語を構成している。たとえば、山本と収容所で共に暮らす仲間たちはフィクションだが、彼らの感情や言葉には実際の抑留者の証言や体験が反映され、物語に深みを与えている。
また、劇中で描かれる収容所に寄り添う犬「クロ」も実在が確認されている存在である。引き揚げの際、クロが氷の海に飛び込み、港から離れる船を追いかけたというエピソードも実際の証言に基づいているとされる。
戦争映画といえば戦場の壮絶な描写や銃撃戦を想像しがちだが、本作が描くのは「戦後」に起きた、もうひとつの闘いである。銃声が鳴り止んだ後も続いた苦しみと希望を、山本幡男という一人の男の信念を通して丁寧に描き出す本作は、静かに、しかし力強く、戦争の本質を我々に問いかけてくる作品である。