公開される時期が悪かった…隠れた名作
『ムーラン』(2022)
監督:ニキ・カーロ
脚本:エリザベス・マーティン、ローレン・ハイネック、リック・ジャッファ、アマンダ・シルヴァー
出演者:リウ・イーフェイ、ドニー・イェン、コン・リー、ジェット・リー、ジェイソン・スコット・リー、ヨソン・アン、ツィ・マー
【作品内容】
1998年に公開された人気アニメ映画『ムーラン』を、実写映画として再構築した本作。主演は中国出身の女優リウ・イーフェイが務め、共演には『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)のドニー・イェンや『ドラゴン・キングダム』(2008)のジェット・リーなど、アジア出身の実力派俳優が多数起用されている。
物語は、女性が家に入り家事に従事するのが当然とされる社会に生きるムーランが、自身の個性と社会の価値観の狭間で葛藤しながら、自らの道を切り拓いていく姿を描いている。魔女というヴィランもまた、特別な力を持つがゆえに社会から疎外された存在であり、ムーランと通じ合う部分を持っている。本作では、そうした“本当の自分”との向き合い方がテーマの軸となっている。
実写化にあたり、アニメ版で大きな特徴となっていたミュージカル要素は排除され、よりシリアスで重厚な人間ドラマへと変化した。その結果、ジェンダーに関する現代的なメッセージがより明確に伝わる構成となっており、特にヴィランの設定を変えたことは象徴的だ。また、戦闘シーンは実写ならではの迫力で描かれており、アクション映画としても高い完成度を誇っている。
一方で、こうした方向性の変更は、アニメ版を愛するファンにとっては戸惑いの種でもあった。赤いドラゴンのムーシューやコオロギといった愛嬌あるキャラクターは登場せず、代わりに現れる不死鳥の存在も象徴的ではあるものの、その役割がやや曖昧で印象に残りづらい。また、ミュージカル要素の不在によって、物語における感情の盛り上がりや“ディズニーマジック”が希薄になってしまった点も否定できない。
さらに、本作の評価を左右した要因として、公開時期の不運も挙げられる。新型コロナウイルスのパンデミックにより世界的に劇場公開が制限され、日本を含む多くの国でDisney+のプレミアアクセス(追加課金制)による配信形式が採られた。しかし、この方式には否定的な声も多く、もし通常通り映画館で公開されていれば、また異なる評価を得られていた可能性もある。