ドラマ史に刻まれる異端の傑作

『家なき子』(1994)

安達祐実
安達祐実【Getty Images】

脚本:高月真哉、いとう斗士八
キャスト:安達祐実、田中好子、保阪尚希

【作品内容】

 貧困、家庭内暴力、孤独。逃げ場のない現実に押しつぶされそうな少女・相沢すず(安達祐実)は愛する母を救うため、犯罪に手を染めていく。

【注目ポイント】

 1994年に日本テレビ系で放送されたドラマ『家なき子』は、社会全体を巻き込むほどの衝撃を与えた異色作である。主演は当時12歳の安達祐実。家庭内暴力、極度の貧困、学校でのいじめ、そして犯罪行為——。子どもが背負うにはあまりに過酷な運命を描いた本作は、「ここまで子どもにさせるべきなのか」と物議を醸しつつも、最終回では驚異の視聴率31.5%を記録し、社会現象となった。

 主人公・相沢すずは、父の死後、酒に溺れる養父・悟志(内藤剛志)から日常的に暴力を受けていた。母・陽子(田中好子)も重い病に伏せ、家庭には一切の安らぎがない。貧困ゆえに日々の食事にも困り、学校では心ない同級生たちからのいじめが待ち受ける。すずがようやく見つけた善意や支えも、ことごとく裏切りによって打ち砕かれていく展開は救いが全くない。

 すずは家を放火し、あてのない放浪の旅へと出る。その中で人の裏切りや欲望、暴力に触れ、次第に「生きるとは何か」を問うようになる。12歳の少女が抱えるには あまりにも大きすぎる問題だ。犯罪、不法行為、そして孤独。その姿が視聴者の胸をさらに重くさせた。

 有名なセリフ「同情するなら金をくれ!」は、まさにこのドラマの核心を突く言葉だった。同情では何も変わらない現実。この言葉が強く響いたのは、単なる泣かせのドラマではなく、社会の冷酷さや大人たちの無責任さを鋭く浮き彫りにしていたからだ。すずの叫びは、観る者に“傍観者でいること”の罪を突きつけた。

『家なき子』は、純粋な子どもがいかに社会によって追い詰められていくかを容赦なく描いた、90年代ドラマ史に刻まれる異端にして傑作である。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!