甘い恋物語のフリをした心理ホラー
『君が心に棲みついた』(2018)
脚本:吉澤智子、徳尾浩司
キャスト:吉岡里帆、桐谷健太、向井理
【作品内容】
下着メーカー勤務の小川今日子(吉岡里帆)は大学時代に心を救われたが傷つけられた男性・星名漣(向井理)を忘れられずにいた。偶然出会った吉崎(桐谷健太)に心動かされ告白する。新たな恋の兆しに期待していたが星名が同僚として現れる。
【注目ポイント】
2018年にTBS系で放送されたドラマ『きみが心に棲みついた』は、吉岡里帆を主演に、桐谷健太と向井理が共演した作品だ。
一見すれば王道の恋愛ドラマのように見えるが、その実態は、痛々しいまでの人間心理を描いた“鬱ドラマ”として知られている。
物語の主人公は、極端に自己肯定感が低い女性・小川今日子(吉岡里帆)。彼女は編集者の吉崎(桐谷健太)と出会ったことで自分を変えようと模索し始めるが、同時に、大学時代に心を支配されていた元先輩・星名(向井理)との共依存的な関係に、再び引き戻されていく。
星名は外面こそスマートで有能なエリートだが、その裏には冷酷で暴力的な本性が潜んでいる。今日子に髪を切るよう強要したり、人前でストリップを命じたりする場面は、その支配性を象徴する残酷な描写だ。
対照的に、吉崎は誠実で、時に厳しく今日子に現実を突きつけながら、彼女が自立していくための支えとなる。彼は、閉塞した世界に差し込む一筋の光のような存在として描かれている。
とはいえ、今日子の心に根を張る過去のトラウマと自己否定の意識はあまりに深く、物語全体に暗く重い空気が立ち込めている。最終話では、星名自身もまた母親との過去に向き合い、精神的に崩壊寸前にまで追い詰められる。そして今日子はついに彼との関係を断ち切り、吉崎との未来に向けて歩み出す決意を固める。
『きみが心に棲みついた』は、恋愛ドラマという衣を纏いながら、実際には共依存の恐ろしさや人間の弱さをえぐり出す心理劇だ。軽やかな恋愛模様を期待して観た視聴者ほど、その深く冷たい闇に呑まれるような感覚を味わったに違いない。
(文・編集部)
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【了】