ルパンが義賊になった日。宮崎駿の“原点”が詰まった一作

『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)

宮崎駿
宮崎駿【Getty Images】

監督:宮崎駿
脚本:宮崎駿、山崎晴哉
原作:モンキー・パンチ
キャスト:山田康雄、小原乃梨子、納谷悟朗、永井一郎、島本須美

【作品内容】
 大泥棒ルパン三世は、仲間の次元大介・石川五ェ門と共に偽札の出処と疑われているカリオストロ公国を訪れる。

 入国した途端、悪漢に追われる1人の少女・クラリスと遭遇し。救出するものの、彼女はルパンに生家に代々伝わる指輪を残して、再び連れ去られてしまう。

 カリオストロ公国の大公家のひとり娘であるクラリスは、強引に結婚を迫るカリオストロ伯爵によって城に幽閉される。ルパンは、その城に潜入することを決意するのだったが…。

【注目ポイント】
 優れた映画脚本を5本だけ選ぶという作業は非常に悩ましいが、邦画に絞るとなれば、アニメ作品を一本も挙げないわけにはいかない。虚淵玄、岡田麿里、大河内一楼といった実力派の脚本家の名も浮かんだが、「日本アニメから一本」となると、やはり実績・知名度・作品の完成度のすべてにおいて頭ひとつ抜けた存在である宮崎駿の作品を挙げざるを得ない。

 その中でも『ルパン三世 カリオストロの城』を選んだのは、各種アンケートなどでも常に上位に名を連ねる人気作であり、さらに宮崎駿のフィルモグラフィーの中では珍しい“フランチャイズもの”である点が大きい。既存キャラクターを用いながら、監督の作家性をこれほど色濃く表現できているという点で、極めて特異であり、同時に高度な仕事と言える。

 もともとモンキー・パンチ原作の『ルパン三世』は、ハードボイルド色が強く、バイオレンスや性的描写も多い、青年~成人向けのコンテンツだった。これに対し『カリオストロの城』では、そうした大人向けの過激な要素を抑えつつ、ルパンの「義賊」としての側面を前面に押し出すことで、全年齢に向けた健全で痛快な冒険活劇へと再構築している。

 ロマンス、ユーモア、アクションが絶妙に絡み合い、なおかつ原作のルパンの本質を損なわない。こうした芸当が可能なのは、間違いなく天才だけだ。

『風の谷のナウシカ』(1984)、『天空の城ラピュタ』(1986)、『となりのトトロ』(1988)、『魔女の宅急便』(1989)、『紅の豚』(1992)、『もののけ姫』(1997)、『千と千尋の神隠し』(2001)など、宮崎作品の代表作は枚挙にいとまがないが、脚本家・宮崎駿としての作家性が最も純粋な形でにじみ出ているのは、もしかすると『カリオストロの城』なのかもしれない。

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