現代社会の闇を真正面から見つめた作品
『ぼっちゃん』(2013)
監督:大森立嗣
脚本:大森立嗣、土屋豪護
出演者:水澤紳吾、宇野祥平、淵上泰史、田村愛
【作品内容】
ネット掲示板に孤独や劣等感を綴る派遣労働者の梶知之(水澤紳吾)は、派遣先の工場で出会った田中さとし(宇野祥平)との間に、同じ疎外感を抱える者同士の友情が芽生えていくが…。
【注目ポイント】
大森立嗣監督による映画『ぼっちゃん』(2013)は、2008年に秋葉原で起きた無差別殺傷事件をモチーフにした作品として注目を集めた。
「秋葉原無差別殺傷事件」は、同年年6月8日、歩行者天国となっていた秋葉原の通りにトラックで突入し、通行人をはねた後に人々をはねた後に次々と刺殺した凄惨なものだった。犯人は直前にインターネット掲示板に犯行予告を書き込むなど、計画性が指摘された。背景には、非正規雇用、家庭との断絶、孤独と誇大妄想を強めるSNSの弊害があり、現代社会が抱える構造的問題を浮き彫りにする事件でもあった。
映画『ぼっちゃん』の物語は、地方都市に暮らす一人の青年が大量殺人に至るまでの過程を淡々と追いかける。職場でのいじめ、信じていた友人の裏切り、そして愛する人からの拒絶が重なり、彼は孤独と絶望の果てに心を閉ざし、やがて取り返しのつかない選択をする。
加害者を一方的に異常者と断じるのではなく、その内面や追い詰められる過程、そして社会との関係性に焦点を当てた本作は、事件を単なるセンセーショナルな題材としてではなく、問いとして観客に突きつけてくる。
実在の事件を題材とする以上、倫理的な配慮が求められるのは当然だが、大森監督はそのラインを丁寧に見極めながら、現代社会の闇を真正面から見つめた作品を作り上げた。