失恋×訃報がダブルで訪れた絶望回

竹野内豊(柳井寛)

連続テレビ小説『あんぱん』第1週 第3話 ©NHK
連続テレビ小説『あんぱん』第1週 第3話 ©NHK

 ドラマ『あんぱん』の中で、柳井寛は視聴者にとってまさに「癒し」の象徴だった。個性が強く、時に暴走気味な登場人物がひしめくなかで、“寛おじさん”は常に穏やかで、人間らしい優しさを体現する存在。嵩(北村匠海)にとっては、人生の転機に数多くの“言葉”を遺してくれる、心の羅針盤でもあった。

 なかでも印象的だったのが、第9週のタイトルにもなった名台詞――

「絶望の隣は希望や」

 これは、大学の合格発表を控えて不安に沈む嵩に、寛が静かにかけたひと言。その言葉は、単なる慰めを超えて、嵩の背中をそっと押す“生きるための信念”となった。

 また、嵩が戦地へ赴いた際に自らを鼓舞するように口ずさむのが、

「なんのために生まれて、なんのために生きるのか」

 これは『アンパンマンのマーチ』の一節であり、ドラマの根幹を支えるテーマでもある。自分の使命を探し、どんな状況でも希望を手放さない嵩の姿には、寛の教えが確かに生きていた。

 そんな寛がこの世を去るのは、第9週・第41話。嵩の人生の中でも、もっとも苛烈で打ちのめされる一日となる。愛するおじの訃報、そしてのぶの結婚という、ふたつの“大きな別れ”が重なり、視聴者の心にも深い悲しみが刻まれた。

 SNSでは、

「おじさんロスでこれからどうしよう」

「月曜日から寛先生退場とか正気ですか…」

「竹野内豊を失った穴は大きすぎるよ…」

 といった声が続出。寛の退場は、それほどまでに大きな喪失感を残したのである。

 だが彼が遺した数々の言葉や、静かに寄り添う姿は、登場人物たちだけでなく視聴者の心にも、これからも生き続けるに違いない。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!