ヒーローではなく“悪役”から始まった異端の道
綾野剛『仮面ライダー555』(2003)
脚本:井上敏樹
キャスト:半田健人、芳賀優里亜、綾野剛 ほか
「仮面ライダー出身俳優」と聞けば、光り輝くヒーロー像を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、その対極に位置する“悪役”として仮面ライダーの世界に足を踏み入れた俳優が、いま日本映画界の第一線に立っていることを、どれだけの人が知っているだろうか。それが綾野剛だ。
2003年放送の『仮面ライダー555』に登場した澤田亜希。彼は人間の姿を保ちながら怪人=オルフェノクに変身する、いわば仮面ライダーシリーズの悪の進化形だった。演じた綾野は、当時まだ無名の新人だったが、その繊細な目の動きや淡々とした口調の奥に潜む狂気、不安定に揺れる感情の機微は、強いインパクトを残した。
出演はわずか数話に過ぎなかったが、ただの敵キャラにとどまらなかった。その役どころは、後年の代表作へとつながる演技の片鱗を感じさせるものだった。
あれから20年以上。綾野剛は暴力的な男から医者、警察官、音楽家、殺人犯、そして父親まで、あらゆる役に変身し続けてきた。どの役にも、彼は必ず仮面をまとわせる。それは単なる演技ではなく、人間の複雑さや多面性を映し出す鏡のようだ。
多くの俳優がヒーロー役を出発点とするなか、綾野剛の出発点は悪役だった。だからこそ彼の演じる人物には、常に裏側がある。正義の裏にひそむ迷い、愛の裏にある不器用さ、冷静な顔に隠された怒りや悲しみ。そうした人間の余白が彼の芝居には深く滲み出ている。