最も黒く、最も美しい絵に挑む奇才の眼差し
『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2023)
脚本: 小林靖子
監督: 渡辺一貴
キャスト: 高橋一生、飯豊まりえ、木村文乃、長尾謙杜、市川猿之助
【作品内容】
人気漫画家・岸辺露伴(高橋一生)は、相手を本にする特殊能力「ヘブンズ・ドアー」を使い、人々の記憶や秘密を読み解く。自身の漫画のリアリティを追求するため、好奇心旺盛な彼は、担当編集者の泉京香(飯豊まりえ)と共に、不可思議な事件や奇妙な現象に遭遇していく。
【注目ポイント】
日本のテレビドラマにおいて異彩を放ち、多くの視聴者を魅了してきた作品の一つに、『岸辺露伴は動かない』(NHK、2020)が挙げられるだろう。荒木飛呂彦の人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズからスピンオフした本作は、その特異な世界観と、高橋一生演じる岸辺露伴の圧倒的な個性が際立ち、瞬く間に熱狂的なファンを獲得した。
主人公の岸辺露伴は、杜王町に住む人気漫画家。しかし、ただの漫画家ではない。彼は「ヘブンズ・ドアー」という特殊な能力を持つスタンド使いなのだ。この能力は、相手を本に変え、その生い立ちや秘密を読み解くだけでなく、ページに書き込むことで相手の行動を指示することもできる。まさにチート級の能力。露伴は、自身の漫画のリアリティを追求するためならば、いかなる奇妙な出来事にも首を突っ込み、その好奇心と探求心は、時に常軌を逸した行動へと彼を駆り立てる。
2020年12月にNHKで第1期が放送されて以来、『岸辺露伴は動かない』は毎年のように新作ドラマの放送や劇場版『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2023)、『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(2025)が公開されるなど人気シリーズとなった。
ドラマは静かな謎解きや心理描写を中心に描き、映画は映像美やアクションで観客を魅了するという、それぞれ異なるアプローチで作品の魅力を引き出している。岸辺露伴というキャラクターの多面性を巧みに表現し、原作漫画の独特な世界観を映像化した本作は、失敗作の多い漫画実写化の中でも、目を見張るようなクオリティを実現している。